2-2 目玉焼きアスパラ添え
ダイニングには僕以外の家族がそろっていた。父さんと弟のグミが向かいあってテーブルに着き、母さんが目玉焼きを焼いていた。
「あなたは毎日毎日寝坊ばかりして」
母さんの険のある小言を半ば無視して、僕はグミの隣に座った。
あれこれ口やかましく言っているけど、聞く振りをして右から左に流した。僕の寝坊ぐせは今に始まったことじゃないんだ。ほっといてほしい。
挨拶もせず席に着いた僕を、父さんとグミは見向きもしなかった。黙々とナイフとフォークを動かしている。まるで僕がそこにいないかのような振る舞いだ。
母さんがテーブルに、パン、目玉焼きのアスパラ添え、牛乳を置いた。ぶっきらぼうな置きかたでいい気はしない。僕は眉間にしわを寄せた。父さんも聞こえよがしの大きなため息をつく。不穏当な空気が強まった。
「待ちなさい。アスパラが残ってるわよ」席を立とうとしたグミを母さんが強い口調で咎めた。
「俺、これ嫌いだって言ってるのに」弟は露骨に面白くなさそうな顔をする。
また始まる、と僕はうんざりした。
これで、食べろ、食べたくないの押し問答が繰り返されるんだ。そこに父さんまで加わって、今度は夫婦間の言い争いになる。だったら初めからグミにだけ出さなければいいんだ。事実、以前だったら食事のバランスに応じて出さなかったり、出してもごく少量にしていた。グミだってできるだけ食べる姿勢は見せていたし、こんな反抗的態度はとらなかった。父さんが干渉するなんてこともなかった。
「それを食べなければ死ぬものでもないだろう」「ひとつ好き嫌いを許せばあれもこれもになるわ」「誰にだって食べられないもののひとつやふたつはある」「それをなくすのが私の務めよ。あなたは口出ししないで」
思ったとおり父さんと母さんの口論に発展していた。
ふたりはテーブルの脇に立って応酬している。双方の語調は荒い。やれ教育に口を挟むなだの、やれ自分も親だ、権利はあるだの。毎回同じようなことばかり言いあう堂々めぐりだ。殺伐とした雰囲気にうんざりさせられる。
グミはうつむき、口を曲げてぶらぶらと足を揺らしている。
父さんたちにやめてくれと言いたかったけど、そんなことをすれば矛先がこちらに向く。蛇が出てくるとわかりきっている藪をつつく気にはなれない。嵐が過ぎ去るのを待つしかなかった。
父さんも母さんも以前は穏やかでケンカなんてほとんどしなかった。
グミもやんちゃながらそれなりに親のいうことには従う子だった。
僕だって、朝から暗然とした顔で、無言で食卓に着くようなことはなかった。
ほんの三カ月前までの話だ。
それまではずっと明るい家庭だった。
すべてはあの事態が発端だった。
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