10-8 クコの浮気
「変わらないよ」そう薄く笑う。「私の気持ちは変わらない」
走り回る子供の歓声が聞こえる。公園のそばを通りかかる人たちの会話。飛び立つ鳩の羽音。それらに混じって届く、彼女の揺るぎない意思表明。
それは優しく僕を包み込んだ。胸にかかった重みがどこかへすうっと消える。マリー、君は。
「言ったでしょ。私はクコが好き、絶対に変わらない、ほかの誰にも恋なんかしないって」
どうして。
どうして君はそんなにも僕なんかのことを思ってくれるんだ。こんなどうしようもなく不甲斐ない僕なんかを。
「理屈じゃないのよね、人を好きになる気持ちって。クコがほかの子によそ見をしようがなにをしようが、私はクコが好き」
やきもちは焼いちゃうけど、とつけ加えた。彼女は達観した笑顔で言ってのける。面と向かってそんな、面映ゆい。
同時に申しわけなさで胸がいっぱいになる。こんなにも一途な子の思いに背くような気迷いをしてしまうなんて。僕は半径一パーセク内で一番のろくでなしだ。
「好きだからこそ傷ついたよ」少しだけ寂しそうにマリーは言った。
「ごめん」それしか出てこなかった。
どんな言葉を並べても、彼女の痛みを和らげることはできる気がしなかった。
「私は今夜一晩かけてこの傷を癒やすから、クコには宿題」彼女は僕を指差した。「プライのことはきっぱり忘れること。いい?」
それが彼女なりの場の収めかたなんだ。
わざと明るく振る舞ってはいるけれど、精神的なショックがそんな一晩でやすやすと癒えるわけがない。それでも今日のわだかまりが尾を引かないように、気持ちの収まりをつけようとしてくれている。マリーという子の強さを痛感せずにはいられなかった。
僕は「そうする。絶対」と強くうなずいた。
「よろしい」
最後の一言を残して、彼女は座った姿勢のまま姿を消した。
ログアウトした彼女の座っていた場所へ手を伸ばした。
僕の手は虚しく空を切る。宙にぽっかりと穴が開いた心地だった。
僕はしばらく公園でぼんやりとした。
駆け回る子供の数が少しずつ減っていく。日が暮れはじめていた。
空を見上げると高いところを飛行機が飛んでいた。遅れて届く遠いジェット音がいやに耳に残る。それを大型トラックの排気音がかき消した。
追いたてられるように僕はすっくと立った。街のシンボルの青きスカイハイタワーが、わけ知り顔で遠くに突っ立っているのが見えた。脳内でログアウトの意思表示を出す。
ウラヌスは一瞬で僕を世界から連れ出した。




