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10-4 クコの浮気

 資料室の整理はすぐに片づく量だった。どう見てもひとりで十分だ。僕とふたりきりになるための口実だったらしい。彼女は悪びれもせずひょうひょうとしていた。


「先輩って、なんでもできちゃう優等生なのに、全然そんなふうに感じさせないところが魅力的なんですよね」棚にファイルを並べながら彼女が言う。「先輩のこと好きって伝えたり、マリー先輩とのことに触れたら照れっ照れになっちゃって。かわいい」

「上級生をからかうんじゃないっ」

「ほら、また照れた。あたしはそういうところも含めて先輩が好きなんですよ」


 片づけをしている間じゅう、彼女は、好きだのつきあいたいだのと口が酸っぱくなるほど言い続けた。こっ恥ずかしくてたまらなかった。僕の性格を知った上での嫌がらせなんじゃないかとさえ疑った。

 つきあいたい、メールアドレス教えて、あと電話番号も、それとSNSはどれを使っている、それらの申し出をすべて拒否し、さっさと作業を済ませた。

 資料室を出ると、僕は逃げるように生徒会室に向かった。


 用事が済んだのにつきまとうプライとともに、生徒会室の前まで帰ってきたときだった。

 廊下で女子と男子が話をしていた。マリーと――もうひとりはフリングスだ。

 先日、彼女を保健室に連れて行った長身の保健委員。僕に気がつくと彼は軽く手を上げて立ち去った。


「どうかしたの」僕は彼女に尋ねた。彼は生徒会の関係者ではない。

「あ、おかえり。ちょっと息抜きしてたらフリングスが通りかかって。少し話してたの」


 彼女はこともなげに言って、僕と横にいるプライを見比べた。


「ね、ちょっと」彼女は声を潜めて僕の袖を引いた。「なにかあった?」


 ぎくり。僕の顔はあからさまにこわばった。

 なぜそんな質問が彼女の口から飛び出すのか。プライのとんでもないセリフが脳裏に蘇る。

 好きだ、マリーに内緒でつきあってほしい――。

 頬が引きつり赤みを帯びてくる。


「別に。なにも」


 彼女は、僕の背後にいるプライと僕の顔を交互に見たのち、釈然としない様子で部屋に入った。まずい。さっきのことを勘づかれてしまったか? 

 ひやひやして室内に入ると、席に戻った彼女は企画書作りを再開していた。別段変わった素振りはない。内心ほっとして僕も書類作成に復帰した。

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