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9-10 もの憂げな翌朝

「ちょっとはめを外しちゃったかも」やがて僕を放した彼女は、気まずそうに目を泳がせた。「嫌、だった?」

「嫌じゃないけど、恥ずかしいよ」

「私も。勢いで抱きついちゃったけど、冷静になったらすごく恥ずかしくなって。どきどきしちゃった」照れくさそうに彼女は笑ってみせた。「早く船が直るといいね。本物のクコともハグしたい」

「ちょっ、それは困るよ!」

「いいじゃない。もう予行演習はしちゃったんだし」

「だめだって。歳相応ってものが……」

「あ、チャイム鳴ったよ。早く教室に行かないと」


 黒い髪と紺色のスカートを翻して、彼女は楽しげに校舎に向かった。昨日くじいた足をかばっている。後ろ姿に追いついて肩を貸した。


「ありがと」彼女はにこりと言う。「クコ、優しい」


 僕は前しか見られなかった。彼女のほんの一言が気恥ずかしくて。また彼女と体が触れあっている高揚感で。ずっとこうしていたいような、今すぐ逃げだしてしまいたいような。両極端の思いが頭のなかをぐるぐると駆けめぐった。


 視界の端で口元を緩ませるマリーに僕もつられる。気持ちはどこまでも舞いあがった。船の問題はまったく先が見えないけれど、今この瞬間は、僕たちはわずらいごとを忘れることができた。生活環境になんの恐れも疑問も持っていなかった昨日までのように。願わずにはいられなかった。学校を終えて帰宅すればトラブルは魔法のように解決していて、変わりのない日常が戻っていることを。メインフレームによって造りあげられた仮想空間内のモデルではなく、実体を持った彼女のそばにいられることを。


 僕はしかし、やらかしてしまう。

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