8-2 懐かしのお泊まり
「だめだ。まったく原因がわからん」一時間ほど調査を続けた叔父さんが首を振った。「恐らくシステム的にロックがかかっている」
システム的なロック。この船を司るウラヌスは、超長期の航行を支えられるよう極めて堅固な設計になっている。いくつかの細大のバグを除けば、万が一はないはずだ。不可解な現象に僕はとまどう。当初はこちらの船の異常かと思われたけど、実はうちの船の側でも同じことが起きていた。僕の家でもハッチが開かないらしい。ハッチのトラブル自体が過去に例がないのに、二機同時だなんてありえない。いったいなにが起こっているんだ。その後、叔父さんが船のシステムに問いあわせをおこなった。だいぶ時間をかけてさまざまなアプローチを試みたようだけど、ウラヌスにも原因は特定できなかったらしい。
お手あげだ。乗員の知識と技術では太刀打ちできないレベルの問題だった。仮に母星の近くを航行しているならば、星に帰還して技術者による修理を受けることも可能だったかもしれない。残念ながらここは何光年も離れた宇宙のかなただ。親切な宇宙人でも通りかからない限り誰の助けもたのむことはできない。
なんにしろ今晩はマリーの家に泊まるほかなかった。ミリーが姉の部屋で、僕が空いたミリーの部屋で寝ることになった。
「えー、お姉ちゃんと同じベッドー? で、クコがあたしのベッド? どっちもやだー」小豆色のボブを振り乱してミリーは拒否した。「クコとお姉ちゃんが一緒に寝ればいいじゃない」
「そ、そんなのだめに決まってるでしょっ」
大あわての姉にミリーは「どうしてー? どうせ結婚するんでしょ」と不思議そうに言う。
「ふたりは結婚するまでは別々に寝るの」
叔母さんが言い含めてもミリーは「えー、なんで? なんでなんで?」と繰り返し質問する。子供の無邪気さって恐ろしい。僕とマリーはふたりして赤面し目をそらしあった。気まずい。今すぐ家に逃げ帰ってしまいたかったけど、残念なことにハッチは開かない。
ミリーの猛反対を受けつつ、最終的には彼女の部屋で寝ることを許してもらった。ものに触るな、動かすな、引き出しを勝手に開けるな、布団によだれを垂らすな、あれをするな、これをするな、とにかくなにもするな、と厳重に釘を刺してミリーは姉の部屋に消えた。




