7-6 おしゃまなミリー
叔母さんの手料理はうちの母さんに負けずおいしい。それぞれの家にオリジナルのレシピが伝わっていて、同じメニューでも味つけが違う。船団では伝統的に男が船のメンテナンスを、女が家事を主に担う。彼女はときどき叔母さんから料理を習っているようだ。将来、彼女がうちに来たら、日によって母さんと叔母さんの味を楽しめるわけか。少し得をする気分だ。
「ねえ、マリーの料理の腕前はどうなの」
「うーん、そうねえ。悪くはないかしら」
叔母さんに尋ねてみると、娘を見て含み笑いをしてみせた。彼女は口をとがらせる。
「だいぶ上達してるでしょ」
「そうね、前よりはね」
「お姉ちゃんが作ったのよりお母さんのほうがいい」
叔母さんのフォローを遮ってミリーが声をあげた。姉ににらまれても妹は知らん顔だ。
「いつか家庭科の授業で腕を奮ってみせるからね」
彼女は僕にウインクした。僕はしょっちゅうこっちに来てるんだから、料理を振る舞うぐらいいつでもできそうなものなのに。まだ全然自信がないらしい。
「楽しみにしてるよ」
フィッシュフライを口に入れながら、彼女の料理をいただくときにこの味はしっかり忘れるようにしようと思った。
食後のミルクティーをいただきながら、洗いもの中の叔母さん以外と話しているときだった。
「クコってオジサンっぽいよね。あ、クコのお父さんじゃなくて、中年のほうのオジサン」ミリーのなにげない指摘に僕はショックを受けた。「言葉づかいとか子供らしくないし。君って呼びかたする子、周りに全然いないよ」
僕っておじさんっぽく見られてたの? まだ十五なんだけど。叔父さんは陽気に笑っている。
「ク、クコは大人っぽいのよ。そういうの、老成しているっていうのよ」
あわててフォローするマリーに、ローセーってなに、とミリーが聞いていた。
いや、まあ、僕もちょっと自覚はあったけど、面と向かって言われるとぐさっとくるというか。じゃあいっそ「マジヤバい」とか言えばいいんだろうか。……うん、僕のキャラじゃないや。
その後、マリーは「お姉ちゃんはオジサンクコが好きなの?」と聞くミリーをたしなめ、「そっかー、僕の話しかた、おじさんっぽいかー、ははは」と傷心の僕を「クコはおじさんぽくないよ。大人びててかっこいいよ」と慰めた。でも子供は正直っていうし。うう。
場の空気を入れ換えようとマリーは、ゲームをしよう、とリビングに移動した。




