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7-3 おしゃまなミリー

 僕とマリーはリビングでゲームに興じた。体育の時間のリベンジを果たそうとしたけど、彼女は常に一枚上手だ。格闘、レース、パズルと、オールラウンドで実力を見せつける。


 船で伝統的に全員がたしなんでいるチェスを指してもそれは同じだった。船団内の頂上対決で彼女は強さを見せる。彼女のなにがずるいって、全然勝負にならないわけではなく、あと一歩で勝てそうで勝てないところだ。まったく話にならないならあきらめもつくけど、これだともう一回、もう一回と挑戦したくなる。


「マリーはうまいよ、いろんな意味で。いつもぎりぎりで勝たせてくれないもんな」


 叔母さんが淹れてくれたレモンティーを飲みながら僕は愚痴った。彼女は首を横に振った。


「ううん、クコだってうまいよ。だんだん腕をあげてきているから私も必死」

「そんなこと言ってこっそり手を抜いてるんじゃないの?」

「してないよ。クコと本気で競いあうのってすごく楽しい」


 心底そう思っている様子で彼女は微笑む。ああ、この子は変な小細工はしないだろうなと思わされる。僕だって彼女と互角に渡りあうのは楽しい。あと少しで勝てる、もうちょっとで負けてしまう、そんな緊張感が心地いい。僕たちはいいライバルだ。



 チェスの二局目を指そうと提案したとき、叔父さんがリビングにやってきた。首にかけたタオルで汗を拭っている。黒い口髭も少し濡れていた。


「マリー、今日はジョギングをする日だろ。夕食前にひとっ走りしてこい」

「あ、そっか。はーい、お父さん」立ち上がる彼女は僕を誘った。「クコも一緒に走ろ」


 僕は彼女についてリビングを出た。うちと同じでコクーンの部屋の隣にトレーニングルームがあり、ランニングマシンが置かれていた。コクーンと同様に二台並んでいる。彼女が右側に乗ったので僕は左側を使うことにした。機器の前方に配置された大型スクリーンに川沿いの土手が映し出される。


「競走だからね」彼女は脇の操作パネルでレーシングモードに設定した。


 僕と彼女は同時にスタートした。

 走りに合わせてスクリーンの映像が流れていく。

 僕たちは体力を維持するため日常的に機器を用いて運動している。コクーンの夢でいくら体を動かしてもイメージトレーニングの域を出ない。かといって大して広くもない船内を走り回るわけにもいかない。現実の街や自然を出歩けない環境にいる以上、こうした体力作りが必要だ。


 息せききって僕たちは駆けた。心臓が躍り汗が頬を伝う。犬の散歩をしている人や対向の自転車が通り過ぎていく。彼女のスクリーンを見た。ややリードされている。学校の授業でもゲームでもチェスでも負けているんだ。ここは勝ちたい。対抗心が燃えあがる。


 ゴールの鉄橋が近づいてきた。僕はペースをあげた。こっちをちらりと見て彼女もならった。体力を温存していたのかここにきて結構な速さだ。僕はラストスパートをかけた。

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