7-2 おしゃまなミリー
放課後、学校を出てすぐにコクーンの夢をログアウトした。母さんに、マリーの家に行ってくると告げて、通路のハッチを開けた。手狭なダクト内に入ると重力の束縛から解放される。ダクトの壁面に手をついて向こう側の船へと遊泳する。彼女の船のハッチを外側から開けると、ちょうど彼女もやってきたところだった。
「いらっしゃい」
彼女は笑顔で出迎えてくれた。無意識に彼女の足元に目がいく。もちろん、右の足首には包帯などしていなかった。ケガをしたのはコクーンの夢のなかでのことで、現実の体に影響はない。ただしコクーンの夢自体は連続性を持っているため、夢のなかでのケガが回復するには相応の日数を要する。仮想世界だからといって突拍子もないことはできない。
とりわけ、死ぬことは絶対に許されない。ウラヌスは恐ろしく堅固なシステムで、非常に安定して稼働しているが、いくつかの欠陥を内包する。そのなかで最大最悪のものが、コクーンの夢の世界で死亡した際の挙動だ。コクーンの夢で死ぬと、使用者の脳に過大な負荷がかかる。深刻なダメージを受けた使用者は、回復不能の脳死状態に陥る。開発時のテストでは、仮想環境とはいえ死亡するような行動をとることはなかったため、発見されなかった現象なのだろうと推測されている。この不具合が発覚してから、長い間、解消が試みられた。けれども、システムのそうとうな深部に関わるものらしく、乗員の技術で解決できるレベルではなかった。だから僕たちは、なにかあればすぐにログアウトするようにと徹底して教えられ、危険を避けるために門限も厳しく制限されている。まあ、門限はしつけの意味あいも強いんだけど。




