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6-5 やきもちマリー

 夕食後、僕は通路にある窓から船外の景色を眺めた。真っ暗な宇宙空間に無数の星々が光っている。夜の時間帯は船内の照明も控えめになり、外を見るにはいい雰囲気だ。ときどきこうして「夜空」を見てみたくなる。母星で暮らしていた頃の遠い先祖に、天体観測の好きな人がいたのかもしれない。


 船は高速で進んでいるが星の動きはない。恒星の動きが目視でわかるほどの速さもなければ、恒星までの近さもない。船団がどこまで到達しているのかはわからない。何十という世代を越えて航行しているんだ。飛び立った母星からは何光年も離れているはずだ。


 窓の外には大きな暗い影があった。その影には何カ所か光が灯っている。マリーの家の船だ。うちの船とダクトでつながり並行している。かつては八機の宇宙船が同じように連結されていたけど、僕たちの世代では二機を残すのみとなっている。減少の原因は判然としない。なんらかのトラブルがあったようだけど、どういうわけかいっさいが後世に伝えられていない。これほど高度なシステムの運用下でそんなことがありえるんだろうか。釈然としない。

 ある日突然、船に障害が発生して家族が全滅する――ぞっとする考えだ。実際、僕とマリーの祖父母は、四人とも五十歳前後で謎の早死にをしている。おじいちゃんたちの記憶はあまり残っていない。父さんたちに死因を聞いたことがあるけど、自然死との一点張りだった。兄弟、いとこ関係にある全員が、ある時期に若くして他界する。不可解だ。もしかして父さんたちも早くに――


 恐ろしい想像を振り払おうとして、隣の船に思いをめぐらせた。ここから見えるあの船のなかにマリーがいる。もう夕食は済んだだろうか。今頃、ゲームをしているんだろうか。それとも妹のミリーとおしゃべりしているんだろうか。わけもなく彼女の顔を見たくなった。会おうと思えばすぐそこのハッチを開いて隣の船に行ける。もちろん、用もなくこんな時間に向こうへお邪魔すれば変な顔をされるだろうし、夜に出歩くことは、コクーンの夢にログインすることも含めて咎められる。子供の無許可の夜間外出は禁止だ。


 早く大人になりたかった。母さんたちの許可なしにコクーンの夢での夜を満喫できるし、彼女がそばにいなくて寂しい気持ちになることもない。子供でいることがもどかしかった。明日、彼女に会ったら、今日十分に話せなかったぶんたくさん話そう。少しでも多くコミュニケーションを重ねることで、彼女の見ている好きという感情がわかる境地にたどり着けるんだと思う。待ってて、マリー。なるべく早く、今よりも一歩大人に成長するから。

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