6-4 やきもちマリー
すっかり気をよくした僕だったけど、夕食の席では母さんの尋問が待ち構えていた。
「クコ、マリーとなにかあったの」テーブルを挟んで向かいあう母さんが詰問調でただす。
「ケンカしてるみたいだったよ、さっきの電話」
原因はグミの告げ口だった。隣に座る弟をにらみつけたが、彼は「俺、聞いたもん」と言いふらすのをやめない。このチクリ魔め。その暗褐色の頭をぐしゃぐしゃにしてやりたい。僕とマリーの不仲は船団の将来に関わるため、大人は敏感だ。下手に隠しだてすると吊るしあげを食う。気恥ずかしかったけど、なりゆきを正直に話した。
「――じゃあ、仲直りはできたのね」
「うん。最後はいつもの彼女だった」
「なーんだ。つまんないの」
軽口を叩く次男を、母さんが「グミ」とたしなめた。こいつこそ婚約者のミリーとしょっちゅうケンカしては叱られてるくせに。
ひとまず今回の件は収まった。はずだけど、父さんは食事の手を止めて考え込んでいた。
「うーん、後輩の女の子か」
口元と顎を覆う黒い髭をなでつけながら、父さんが腑に落ちない様子で言った。どうしたの、と尋ねる母さんに、うん、ちょっとな、と曖昧に返事をして、緩慢にナイフとフォークの動きを再開した。
たまに父さんは自分だけで考えごとをする。そういうときに母さんは深く詮索しない。父さんの胸中を汲んでそっと見守る。これがマリーだったらどうだろう。僕がなにかはっきり言わないことがあれば、納得するまで食い下がる子だ。離れている時間のある今ならともかく、四六時中一緒の結婚生活でそれだと息苦しい。ときには察してほっておいてほしい。結婚したらそういうことも覚えてくれるのかな。
ぼんやりと将来を想像していると、あなたもクコも早く食べて、片づかないでしょ、と母さんにせかされた。




