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6-3 やきもちマリー

 コクーンから目覚めた僕は、リビングに急いだ。マリーの家へ電話をかけると叔母さんが出た。彼女に代わってもらうよう頼む。彼女が出るまでいつもより時間を要した。


「なに?」抑揚のない調子で彼女は応じた。あまりいい気分ではなさそうな様子だ。

「今日、全然話さなかったね」

「そうかもね」彼女はそっけなく言う。やはりいつものマリーじゃない。

「あのさ、どうかした?」僕はうかがいをたてるように聞いた。

「別に」

「もしかするとなにか怒ってる?」

「なにを?」

「わからないけど、ずっと口をきかなかったから」

「そりゃかわいい後輩と楽しくおしゃべりしてたら私と話す暇なんてないでしょうね」少し険のある言いかただった。

「あれはプライがつきまとって離れなかったから」

「あの子、調子いいものね。先輩先輩って甘えられて褒められたら気分はいいでしょうよ」

「よかないよ。いい迷惑だ」

「私みたいななんでもかんでもクコを負かせる子より、ああいうかわいげのある子のほうがタイプなんでしょ。髪も私みたく地味な黒じゃなくてかわいらしいベージュだし」なぜプライの話ばかりするのか僕には理解できなかった。

「だから僕は好きだとかそういう気持ちはまだよくわからないんだってば」

「じゃあ、私じゃなくてプライを好きになるかもしれないってことね」淡々と話していた彼女の口調が少しきつめになった。

「なに言ってんだよ。プライはコクーンの夢のなかの子じゃないか」

「好きにならない理由にはならないでしょ。クコがあの子に恋しない保証はない」

「そんなこといったら、君だってほかの男子を好きになるかもしれないだろ」


 彼女の言葉が少しの間途切れた。


「――ないよ。ありえない」一転して、思いがけず声のトーンが柔らかくなった。「私はクコのことが好き。絶対に変わらない」


 穏やかだけど、決意の表れた断言。不確実な未来に対して迷いなく言いきる、確信に満ちた思い。甘くてまっすぐな言葉。

 胸の辺りに、温かいなにかがじわり広がった。


「僕だってそうさ。君が一番大切だ。好きになるのは君に決まってる」

「クコ……」


 また彼女の声が聞こえなくなった。呼びかけると鼻をすするような音がした。


「ありがとう。うれしかった」

「う、うん」

「今日は変でごめんね。学校では昨日のことでもやもやしてて。ボーリング場のときはプライにやきもちを焼いちゃって」

「そうだったんだ」


 僕はやっぱり鈍感だ。一番の親友の思いを推し量れないなんて。


「あ、お母さんが呼んでる。今から料理を教えてもらうの。もう切るね。明日はいつもどおり話そ」

「うん。じゃ、おやすみ」

「おやすみ。――クコ」

「なに?」

「……大好きだよ」

「えっ……。あ、うん……」


 うれしそうな声を残して電話は切れた。不意打ちの言葉に頬がかあっと熱くなる。彼女は恥ずかしいことを平気で口走るから困る。照れくさくてしばらくの間、僕は受話器を握ったままうつむいていた。

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