5-5 詮索好きのプライ
「まだ早いからしちゃいけないと思う」
「でも私たちもう中三だよ。来年は高校生なんだし」
「そうじゃなくて。いや、それもあるけど。その、僕のほうがまだそういう段階にないっていうか。好きっていう気持ちがまだよくわからないんだ。僕のなかじゃ君は幼なじみのいとこで、キスだとかそうことは思いもしないというか。ごめん、うまく言えない」
思いつくままのことをしゃべった。なにか間違ったことを口にしていないか、彼女を嫌な気持ちにさせていないか、わからないまま。彼女の顔をまっすぐに見ることができなかった。いろんな靴の足音、さまざまな車種の走行音が、僕たちの沈黙を素通りする。
「……ん、わかった。クコの思ってることを聞けてよかった」彼女は気落ちしたように言った。
「あの、マリー」
「大丈夫。怒ったり傷ついたりしてないよ。ちょっと残念だっただけだから。クコと私じゃ今はまだ温度差があるんだなって」
「僕っ……、君のことだいじだから。好きだとかわかんないけど、一番の親友だと思ってるからっ」
責められているような気になって僕は懸命に弁解した。彼女は赤い頬を、どこか寂しそうにゆがめて笑ってみせた。
「ありがとう、クコ。なんか変なこと聞いてごめんね。このままじゃ気まずいしもう帰るね」
マリー、と呼びかけ引き止めようとしたけれど、彼女の姿は消え失せた。彼女はコクーンの夢からログアウトした。僕はひとり、道の端で立ちつくした。
彼女を失望させてしまった。なんて後味が悪いんだろう。でも嘘はつきたくなかった。彼女には正直でいたかった。彼女に言ったとおり、大切な親友だから。その結果がこれか。じゃあ、どう言えばよかったんだ。そんなこと、わかるもんか。
通りがかる人たちの間で、僕はしばらく悶々とたたずんだ。気がつくと街並みがオレンジ色に染まりはじめていた。遠くのスカイハイタワーが、一部始終を見ていたかのように、超高層の青い体で僕を見下ろす。もうすっかり春なのに、吹き抜ける風が薄ら寒く感じられた。帰ろう。ログアウトの意思を頭のなかで示す。すぐさま僕の姿は街から蒸発した。




