30-7 宇宙生活の終焉
船団は今後について協議した。僕は真っ先に母星への帰還を希望した。事故に怯えて暮らすのは嫌だと。ときおり悪夢を見続けるのは、宇宙船での暮らしに対する恐怖が芽生えてしまったのが原因と考えていた。
母星への移住にはマリーも同意見で、弟たちも単純な好奇心から賛成した。
一方、大人は、強く反対した。長い年月をへて、現在の母星は、コクーンの夢で再現される社会とはまったく異なったものに変遷しているはずだ、相手側に受け入れられる保証はないし、こちらも受け入れがたいものかもしれないと。
さらには、より悪いケースも僕たち船団は想定しなければならなかった。しかも、けして低くはない可能性として。
それは、文明もしくは人類の滅亡。
ウラヌスは、母星にある運営組織のセンターと常にやりとりをしていた。
船内の状況から遺伝情報の解析結果まで、さまざまなデータをセンターへ送信。母星からは、指示やシステムのアップデートなどを受けていた。(残念ながら、コクーンの夢での死が実際の死に結びつく不具合は修正されていなかった)
ところが、ある時期を境に母星がわからの通信が途切れがちとなり、やがて、絶えてしまう。
エマさんにも協力をあおぎ、受信データやログなどから専門的な分析を試みたが、なにが起こったのか原因は判然としなかった。
映画で見るような、大規模な戦争や凶悪な病原菌を罹災したのか、星の環境が著しい変化に見舞われたのか。もし計画が世に露見し中止に追い込まれたのであれば、船に報せが入り母星へ帰還しているはずなので、それではなさそうだ。
事態の経緯・経過が杳としてつかめず、深刻な汚染や荒廃にいたっているかもしれない――極端なことをいえば、どこか遠い星から宇宙人がやってきて乗っ取られてた、なんてことも――仮に無事だとしても価値観の大きく変わった世界であろう母星は、リスクと失望が待ち受けるだけではないか、と大人は皆、同意しない。
それでも僕は母星の土を踏みたい一心で、親たちの説得を試みた。
船での暮らしには不測の事態がつきまとい、万が一のことがあれば取り返しがつかない。
その恐怖にとりつかれた僕は、もはや船の環境を生涯、甘受するのは耐えがたい。
そもそも人はこんな宇宙を浮遊して生きるようにはできていない。
遠い未来のいつかには船のエネルギー源が尽き、遅かれ早かれ星に還らなくてはならない――
マリーたちを巻き込み子供全員でかけあった結果、最終的に大人は折れてくれ、三年半かかる母星への針路がとられた。




