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1-2 宇宙生活の終焉

 死ぬ。その率直な問いに一瞬、血の逆流する感覚に襲われた。この船で生まれて暮らしてきた十五年間で、一度も実感したことのない恐怖。


「もう生命維持系統がいつダウンしてもおかしくない」


 父さんはグミの言葉に直接的な言い回しは避けて答えた。


「だって、船のシステムは二重三重、何重もの安全設計が施されているんじゃないの?」僕は懸命に訴えた。「千年どころか一万年の運用に耐える信頼性を誇るはずだろう?」


 その堅牢な船のシステムが機能を失う。先ほどから大型モニターには、この残酷な事実が映し出されていた。

 ひっきりなしに表示される、大量かつどぎつい色のアラート。そのかたわらで次々と読みあげられる異常通知。

 呼吸が浅く速くなっているのが自分でもわかった。心臓が跳ねるように強く打っている。


「理論上は一万年以上の稼動に耐える設計になっている。だが実際には、理論と、実践の結果にはギャップがある。そのなかでも最悪のケースのひとつが発生したということだ」


 父さんは背を向けたまま首を横に振った。

 そんな不条理な話があってたまるか。僕は父さんに歩み寄り肩をつかんだ。


「父さんは優秀なエンジニアなんでしょ。どうにかならないの」

「とてもひとりで対処できる規模の障害じゃない。手は尽くしたが、もはや処置なしだ」


 あきらめのにじんだ父さんの返答に僕は声を失った。すでに覚悟を決めている響きだ。

 父さんは僕の手に手を重ね、肩からゆっくりとほどいた。床から起き上がると母さんを見た。


「母さん、あれを」


 固い表情で母さんはうなずき、通路の奥、倉庫のほうへと向かった。 僕が当惑していると、小さくて四角いケースを持って戻ってきた。

 そのなかにはいくつかのカプセルが収められていた。オレンジ色の非常灯のもとでも青っぽく見えるほど真っ青だ。それが家族にひとつずつ配られた。

 僕は「これは?」と聞いた。


「苦しまずに済むためのものよ」

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