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30-2 宇宙生活の終焉

 想像したのと違う、小さくて丸っこいものが口に触れる。内心で、おや、といぶかしむ。

 鼻だ。僕は彼女の鼻に口づけているんだ。ミリーが吹き出した。


 あっ、と思ったときには、僕の口先は彼女に奪われていた。


 これが、マリーの唇。彼女は扇情的に、からみつくように押し当ててきた。

 僕は、マリーとキスしている。

 今この瞬間、奥さんになった女の子と。誰ともしたことのない者同士で。

 心臓が別の生きものみたいにばくばく鳴った。

 感覚が口先の一点に集中していた。

 頭は真っ白でなにも考えられなかった。


 長い間か短時間だったかわからない。自然と僕たちは口づけを終えて顔を離した。僕も彼女も紅潮していたけれど、彼女の顔は赤みだけではなかった。頬を伝うふたすじの雫に僕はあわてる。


「やっとクコとキスできた。やっとクコのお嫁さんになれた。やっと夢、かなった」


 感極まり落涙する彼女と、泣かないでよ、と弱る僕に、拍手とおめでとうとの祝福が贈られる。ますます彼女は涙し、僕はひたすら困窮した。


「これでお姉ちゃんたちもキスしたね」


 姉へからかい半分に声をかけるミリーに、グミが、わっ、馬鹿っ、とあわてた。ミリーは、いけない、といった様子で口もとを覆う。あいつら、あの歳でそんなことを。

 母さんが、あなたたちにはあとで話があるわ、とじろりとふたりを見た。ミリーはぺろりと舌を出し、グミは気まずそうにあさっての方向へ視線を逃した。

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