30-1 宇宙生活の終焉
「汝、クコは、我が子、マリーを生涯の妻とし、死がわかつ日まで愛することを誓いますか」
「誓います」
叔母さんの問いかけに僕は宣誓する。
「汝、マリーは、我が子、クコを生涯の夫とし、死がわかつ日まで愛することを誓いますか」
「誓います」
母さんの問いにマリーも誓いの言葉を述べた。
僕の家のリビングで、僕たちの結婚式は厳かに執りおこなわれていた。
両親と弟妹の見守るなか、僕と彼女はそれぞれ純白のタキシードとウエディングドレスに身を包み、薬指には結婚指輪をはめていた。いずれも船団で伝統的に用いられてきたもので、衣装はそれぞれの母親が仕立てなおした。
彼女は大喜びで着たけれど、僕は嫌でしかたなかった。指輪はコクーンの夢で慣れていたからいいとして、この真っ白な服はだめだ。仮装でもしているかのようで。小学生の頃のグミなら僕をからかってるだろう。
その装束も、このあとおこなわれることに比べれば何千倍もましだった。
「では、永遠の愛を皆に示すため、誓いの口づけを」
来た。母さんと叔母さんが声をそろえて僕たちに指示する。
式の手順を聞いたとき僕は猛反発した。夫婦になる以上、しかたないとしても、みんなの前でなんか絶対嫌だった。
両親からは昔からの大切な儀式だと咎められ、マリーからは女の子のあこがれなのにとへそを曲げられ、僕の羞恥心なんてまったく相手にされなかった。うう。
向きあう彼女がそっと目を閉じ、薄紅色に塗った唇を近づける。ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
僕はぎゅっと目をつぶって彼女に口を寄せた。




