5-3 詮索好きのプライ
僕とマリーはあてもなく街をぶらついた。隣の人と話したり携帯端末をいじったりしている人たち、往来する色とりどりの車、風にそよぐ等間隔に植えられた木々、立ち並ぶビルとそこに入る店舗。すべてはシステム、ウラヌスの描き出す仮想の姿だ。僕たち自身でさえ。でも、その質感は実物と遜色なく、ほとんど本物と同等だ。僕たちふたりは今、間違いなく、確かに街でデートしている。
「マリーは楽しい? こうやってただ歩いているだけで」
「うん、楽しいよ。クコと一緒に街歩きするの」にこりと即答する彼女は逆に聞いてきた。「クコは?」
どうなんだろう。彼女は小さいときからずっとそばにいる子だ。こんな並んで歩くだけのことに大した感情は湧かない。湧くとは思えない。
「僕は――よくわからない。ほら、毎日のように顔をあわせてるしさ」
お茶を濁すように返答した。デートと称して行動することは、嫌ではない代わりにそれほどの面白味もない。楽しんでいる彼女に水を差すのは悪い気がする一方で、楽しいと言って調子を合わせるのも嫌だった。彼女はちょっと鼻白んだ表情になった。
「ふーん。クコは楽しくないんだ」
「楽しくないとは言ってないだろう」
「楽しかったら楽しいって言うでしょ。よくわからない、なんて言わないもん」
彼女は立ち止まって口を曲げてみせた。ご機嫌ナナメのご様子だ。こういうときに下手を打つともっと不機嫌になる。ここは折れよう。
「いや、楽しいよ。すごく楽しい。今のは照れ隠し。素直に言うのが恥ずかしかったから」
「嘘くさーい」ぷいっと彼女は背を向けた。「全然心がこもってない」
なだめすかしても彼女は振り向こうとせずだんまりを決め込んだ。通行人がときおり、ちらちら僕たちを見ている。弱ったなあ。彼女が機嫌を損ねると気まずくてしょうがない。加えて母さんたちからもうるさく言われる。ここはなにか甘いものでもおごってとりつくろうかと考えていたとき、彼女がぼそっとつぶやいた。
「クコは私とキスしたい?」




