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26-5 青い巨塔に待つ者

 最上階へのエレベーターから下りの客がぞろぞろと出てきた。最後の男性客が降り、僕とマリーが乗り込む。僕は、おや、と思った。


 ドアが閉まり、左右のガラスの景色が下降しはじめる。乗員は僕らふたりだけだった。

 中央展望台には数十人は人がいたはず。にもかかわらず誰も乗らないなんて。

 そのことを彼女に話そうとしたけど、やや青白い顔をしていたのでやめた。この不穏な空気に対するものか、それとも単に高所が不得意だからか。


 また耳を突く不快な感覚が生じる。僕は耳抜きのためだけではなく、唾を飲み込んだ。



 鐘の音が到着を告げ、ドアが開く。僕は息を飲んだ。目の前には三百六十度のパノラマが広がっていた。

 ガラスの壁に歩み寄る。街全体はもちろん、川や橋、遠くの山々までかすんで見える。晴れていれば海も見えたかもしれない。絶景だ。

 ここに来たのは二度目だが景色は初めてだった。灰色の厚い雲が惜しまれる。


 彼女は端に近づこうとしなかった。ただ「人、いないね」とだけつぶやいた。ここもか。

 観光客で賑わっていて当然の最上階が無人。その意味が僕に緊張を強いる。そうだ。のんきに景色なんか見とれている状況じゃない。あるいは無意識のうちに現実から逃避しようとしているのか。


 地上階から最上階の展望台まで貫く吹き抜けを迂回した先、エレベーターの真裏に玉座がある。なにごともなく指輪を置けるとは思えなかった。



 スカイハイタワーには小学生のころ、遠足で来たことがある。

 運悪く、その日は数年に一度のひどい霧で、ほとんどなにも見られなかった。

 場を持たせようと、引率の先生がいろいろとしてくれた解説のうち、玉座にまつわるエピソードがあった。高い場所から王様気分で街を見下ろせる、という触れ込みで設置されたが、市民からは「悪趣味だ」と不評だ、というもの。

 だいぶ昔のことなのに、なぜか今でもその話を覚えている。


 僕たちが数年ぶりに訪れた玉座には、君臨する支配者然とした()が、足を組み、肘かけに左手で頬杖をつき座していた。正確には女王(・・)というべきか。

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