表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/203

24-8 動物園の死闘

 後頭部に、ごっ、という音が響いた。首にかけられた手が緩む。

 不意に食らわせた頭突きがみごとに決まった。


「逃げよう!」彼女の手をとり走りだした。「だめ!」彼女が叫ぶ。

 僕は怪訝な顔で水しぶきを散らす。

 十歩も進まないうちに僕はなにかにぶつかった。


 なにかに(・・・・)


 ――いいや、なにもなかった(・・・・・・・)


 小さな広場の一角、ベンチの近く。

 そこにぶつかるようなものはなにひとつない。

 道の向こうにはカバの褐色の体が見える。


 手を伸ばす。

 なにかに触れた。のっぺりとして硬質な、なにか。


「壁があるのよ」彼女が悔しげに言った。


 壁。

 なにも見えない空中をあちこち触った。

 上下左右、どこまでも平面が続いている。まるでパントマイムを演じているようだった。

 なんだ、これ。


 ゆっくりと水を跳ねる音に僕たちは振り返った。フリングスが近づいてくる。

 右手にナイフが握られていた。どこに隠し持ってたのか、映画でしか見ないような、特殊部隊の装備品じみた本格仕様のものだ。

 鋭利な刃先にひどく似つかわしい、感情を欠いた(けだもの)()

 ああ、さっきのはまだ本気で殺そうとしてはいなかったのかもしれない。今度こそ本当に殺す気だ。

 僕たちは見えない壁に張りつく。


 彼は、この状況は、いったいなんなんだ。思考がまるで追いつかない。いつもの悪い夢なら早く覚めてくれ。


「左手を出して」


 真剣なまなざしで彼女が言った。左手?

 とまどう僕の手をぶんどり、自身の左手を重ねる。

 やめろ、とフリングスが強い口調で命じた。怒りとも恐怖ともつかないその形相に肌が粟立つ。

 かまわず彼女は「たぶん、いけるはず」とつぶやいた。

 かちり、と指輪が触れあう。


「どっかに行って!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ