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4-4 美しき怒れる四天王、ソフィア先生

「じゃあ教科書の四十八ページ。f(x)の値が定数aに限りなく近づくとするなら――」


 ソフィア先生が黒板に式を書いていく。先生は一年生のときからの持ち上がりだ。全科目を受け持っている。その授業を受けるクラスメイトたち――

 実際のところ、僕とマリー以外はすべて仮想世界の産物だ。メインフレーム上で稼動しているシステム「ウラヌス」が創造し操るバーチャルな存在。先生に限らず、何十人といる生徒ひとりひとりに人格が与えられている。


 僕は彼らを空虚なものだとは感じない。みんな実在の人物と等価の、確かな存在感を持ってそこにいる。小学校からつきあいのある奴もたくさんいる。休み時間はマリーよりもそいつらとつるむことが多い。大切な友達だと思っている。


「ね、クコ、クコ」


 問題を解いているとマリーが話しかけてきた。いたずらっぽい笑みを浮かべている。肩の黒髪が、窓からの春風に軽くなびいた。


「今日さ、放課後に遊びに行こうよ」

「なんだよ、やぶから棒に」

「今、ふっと思いついちゃった」

「またみんなにからかわれるぞ」

「いいもん。なんかクコとデートしたい気分になっちゃったんだもん」

「僕は別になってない」

「じゃあなってよ。将来のだんな様でしょー」

「そんなこと言われたって」

「そこっ、なにを話しているの」


 ソフィア先生の注意が飛んできた。授業中の私語には厳しい。先生と目が合った僕の横で彼女は、私は無関係です、とばかりにうつむきペンを動かしている。話を振ってきたの君だろっ。


「ちゃんと聞いていたの? 問四、解いてみなさい」

「えと、dx/dy=1+1/xの2乗です」


 幸い勉強は得意なので話半分に聞いていても答えることができた。


「よろしい。でもおしゃべりはしないように」

「はい、すみません」


 難を逃れた僕はマリーをにらみつけてやろうかと思ったけど、彼女は顔をそらして知らんぷりを決め込んでいる。この子は……。もう今日はデートなんてしないぞ。

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