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24-5 動物園の死闘

「つきまとうのはもうやめてっ」


 彼女がフリングスに強く抗議した。彼は無表情で彼女をじとっと見ている。

 彼女の厳しい口調に僕はなぜかほっとしていた。


「指輪を渡したらおまえの言うとおりにしよう」


 強い雨のなかでもよく通る声で、フリングスは彼女を指さした。

 指輪。さっきもプライが口にした。僕は自分の左手を見た。濡れた指に金属の輪が鈍く光る。

 こんなおもちゃのようなペアリングがどうしたっていうんだ。


「これはクコとの婚約指輪なんだから」雨のしたたる髪を乱し彼女は首を振った。「絶対に嫌っ」


 フリングスが彼女ににじり寄る。よこせ、と彼女の左手首をつかんで強く引っぱった。なんて乱暴な。

 彼女は体を引いて抵抗する。


「やめろ!」僕は怒鳴り、もの陰から飛び出した。


 フリングスの腕を取り、彼女の手からほどかせる。「クコ!」と彼女が驚きの声をあげた。


 一方のフリングスはまったく動揺を見せない。まるで僕がここに来ることを知っていたかのように。


「僕の友達に暴力を振るうな」僕は彼女の前に立ちはだかった。「ケンカは好きじゃない。おとなしくどこかに行ってくれ」


 僕なりの強がりを見せて、高い位置の顔を見すえた。


 フリングスは感情のない目で見下ろす。なにかに似ていると気づいた。

 ガラス越し、鉄格子の向こうに見た猛獣たちの目。

 なんの慈悲もなく冷酷に獲物を狩る捕食者のそれ。

 雨に濡れているせいだけではない寒気がした。

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