4-3 美しき怒れる四天王、ソフィア先生
僕は学校の前に立っていた。僕とマリーが通っている中学校だ。近くを国道が走り、住宅と企業や店舗が密集する立地の、ありふれた学校だ。近隣には観光スポットのスカイハイタワーがそびえている。
春らしいさわやかな風に校庭の木々が緩くなびいていた。僕は学生服姿で通学鞄を持っている。コクーンの夢では、ログイン時に、シチュエーションに応じた服装が用意される。
チャイムが鳴った。予鈴だろうか。ふたりほどがあわてて校舎へ走っている。ほかに生徒の姿はない。校舎の壁の時計はかなり厳しい時刻を示していた。僕は校庭の土を蹴って駆けだした。
「クコっ、また遅刻よ」
飛び込んだ教室で僕を待っていたのは、担任のソフィア先生のお説教だった。ぎりぎり間にあう目算だったんだけど、僕の勘も当てにならないな。
「昨日もおとといも遅刻。あなたは時間にルーズすぎます」
教室の前で小言を受けた。眼鏡のなかの目が吊り上がっている。後ろにまとめて垂らしている鮮やかな金髪がトレードマークの、美人で人気のある先生だ。ただし怒ると大変怖い。生徒の間では四天王のトップと呼ばれ恐れられている。僕は先生の前でちんまりとなった。
「すみません。寝坊してしまって」
「おうちの人に起こしてもらいなさいっ」
くすくすと笑い声が起こる。ひとしきり絞られて僕は席に着いた。うう、仮想世界側が僕の行動パターンに合わせてくれれば、遅刻なんて起こらないのに。こんなんじゃ精神衛生を良好になんて保てやしない。
「クコってば遅刻しすぎよ」
隣の席のマリーがまじめぶった顔でなじる。ほんとは面白がってるくせに。
彼女も学校では制服姿で、上下紺色のセーラー服を身につけている。僕と彼女は昔から隣同士の席だ。仲が深まるようにとシステムが設定しているらしい。グミとその婚約者のミリーもそうだし、父さんと母さん、マリーのうちの叔父さん、叔母さんもそうだったと聞いている。




