21-8 老婦人・エマとの出会い
常夜灯が照らす薄暗い室内にいることに気づいて、僕は安堵した。
ベッドの上で身じろぎする。寝汗で濡れたパジャマが体にまとわりついた。気持ち悪いので下着も含めて全部着替えた。
ここ最近では、あの悪夢以来のひどい夢だった。いや、マリーの死にぎわを突きつけられたこちらのほうがきつかった。
無性に彼女の声が聞きたくなる。机の時計に目をやった。見るまでもなく真夜中だ。電話なんてかけられるわけがない。
頭の後ろで手を組み、薄闇をまとった天井を見やる。
さっきの夢は、改めて僕たちの生活環境の危うさを示すものだった。
コクーンの夢での暮らしに慣れるとより忘れがちだけど、僕たち八人は常に死と背あわせの状況下にいる。十数メートル先は真空で、ほぼ絶対零度、数ケルビンの宇宙空間だ。高速で航行している船は、指先ほどでも天体の破片がぶつかれば大惨事にいたる。
もちろん衝突の確率は低いし、回避するための防衛システムも備わっている。ウラヌスの暴走同様、可能性は限りなく低い。
それでも、万一のことが起きれば、宇宙が牙をむけば、僕たちはたやすく命を落とす。母星のもとを離れた人類にはあまりに厳しい場所なのだ。その事実を夢は冷酷に告げている。
後頭部から手をほどく。反転して枕を抱え顎を乗せた。
思い悩んだからといってなにかできるわけでもない。できるとすれば、せいぜい船についてよく学ぶことぐらいだ。
事故は、この船団に生まれた以上、死ぬまでついて回るリスク。
夢がなにを見せつけようと、もうひとつの夢――コクーンの夢で、母星と同じ世界を享受して忘れればいい。そうでなければ身がもたない。
再び眠りにつくまでの間、僕はいくども自分にいいきかせた。




