20-2 婚約指輪
「これは婚約指輪です」顔を上げて宣言する彼女に僕はどきりとしたけど、それにはまだ早かった。「クコもしています」
二段構えのサプライズで仰天する僕をよそに、ざわつくクラスメイトと先生の厳しい視線が集中した。まさか、と恐る恐る左手を見下ろす。
そこには確かに、僕の薬指にも、銀色のリングがあった。遅刻ぎりぎりで気づかなかった。こんなものをクラスじゅうの面前で見られてしまうなんて。
彼女はちょっと赤らんでいたけど、僕はちょっとどころではなかった。顔から火が出そうだった。ひゅーひゅーと野次が飛ぶ。勘弁してほしい。
「はい、静かに」ソフィア先生がぱんぱんと手を叩いた。「いいでしょう、そういうことなら認めます。デザインも華美ではないし」
教壇に戻って行く先生に、内心で、えっ、いいの、と困惑する。中学生が指輪をしてて、婚約指輪です、なんて突飛な主張で許可してもらえるものなの?
ちらちら向けられる視線やひそひそ話よりもそちらのほうが気になって、ホームルームはうわの空だった。
休み時間は僕と彼女の席に人だかりができた。指輪と婚約に関するありとあらゆる質問・感想・冷やかしが飛び交った。
こういうことで注目を浴びるのが苦手中の苦手な僕は、ただただ赤面し、口を縫いつけられたようにだんまりだった。苦笑しながらもなんとか受け答えのできる彼女を尊敬する。
僕は終始、左手をポケットに突っ込みひた隠しにしていた。指輪を外してしまいたかったけど、彼女を悲しませそうでできなかった。




