20-1 婚約指輪
僕はどうしても遅刻癖が治らない。花火大会の翌日もぎりぎりで教室に滑り込んだ。
ほとんど同時にチャイムが鳴り、教壇のソフィア先生にじろりとにらまれる。僕は口角を引きつらせてそそくさと席に着いた。クラスじゅうの刺さるような視線はいつものこと。
今朝は叱られずに済んだとほっとしていると、先生が、後頭部にまとめた金色の髪を揺らせ僕に向かって来た。
あれ、ホームルームには間にあったはずだけど。僕に限ってシャツを着崩したりもしてないし。
先生が席の前に立つ。なにを叱られるんだろうと僕は身構えた。
「手を見せてごらんなさい」
反応しかけて、指示されたのが隣のマリーだと気づいた。
きょとんとして彼女は「こうですか?」と両手を机の上に置く。直後に彼女は小さく、あっと声を漏らした。彼女の左手には昨日のペアリングがはまっていた。
「そういうものを学校につけて来てはいけません」
眼鏡の奥の目は厳しかったけど、言い含めるように先生は注意を与えた。彼女はうつむいて指輪を見つめている。当日限りのアイテムがなぜまだ残って。
理由はわからないけど、ひとまずここは謝るしかないよ、マリー。
彼女の、すみません、との言葉を待った。が、とんでもないことを彼女は口走った。




