19-12 夏と花火と初めてのキッス
その日の夜、僕はなかなか寝つけなかった。
もう毎晩のことだけど、今夜は特にそうだ。祭のあとで脳が興奮しているためだと思った。マリーに手を握られてから心臓は高鳴りっぱなしだった。その刺激が尾を引いているのだと。
しかし思いなおす。僕はやはり不安なんだ。
ほの暗い光を見上げて僕は両足を曲げる。
今日は楽しかった。普段は出歩けない夜の野外、祭の浮いた雰囲気、四、五種類は食べた屋台の料理、競いあったゲーム、見ごたえのあった花火、彼女と、その……つないだ手。
楽しかっただけに、今後の機会を失うことが怖くなる。いつも考えているようなコクーンの故障かもしれないし、船のトラブルかもしれない。あるいは想像もつかない未知の危機に見舞われるのかもしれない。
壁に体を向けて寝返った。
不安を感じる状態が続いている。
コクーンが使えるようになって、ストレスから解放されて、不安は解消されると思っていた。楽しいこと、うれしいことが癒やしてくれると。
逆だった。それらがかえって重石となり圧迫してくる。
楽しければ楽しいほど、それを人質に取るように不安は心のなかに居座る。
僕はどうなってしまったんだろう。今夜も眠れない夜を過ごすのか。
壁をぼんやりと眺め、深々とため息をついた。魂がいくらか流出したような気がした。




