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19-10 夏と花火と初めてのキッス

「妥協案?」


 聞き返す僕に、彼女は「あ、そろそろフィナーレだよ」と空を指さす。

 クライマックスに向けて無数の花火が次から次へと打ち上がりはじめていた。

 いろんな色が光り輝き、混じりあい、あたかも宝石箱をぶちまけたような極彩色が夜空を飾った。観客の、わあー、という感嘆があがる。


 光と色の洪水をすり抜け、一本の赤いすじがはるか天空を目指した。

 人々の追いかけた視線の先でひときわ大輪の花が咲き誇る。空を覆い尽くさんばかりの特大の花火。

 遅れて響く堂々たる音色。大きな歓声と拍手が沸き起こる。

 目を奪われる僕の頬になにかが触れた。

 振り向くと、彼女のいたずらっ子みたいな笑みが離れていくところだった。


「き、君は!」

「ほっぺチューしちゃった」


 彼女はうれし恥ずかしと身をくねらせた。僕は思わず頬に手を当てる。驚くほど熱かった。


「グミみたいに拭いたりしないでよ。ミリーのような子供じゃないんだから傷つく」


 冗談っぽく彼女は牽制する。僕は無意識に拭おうとしていた手を止めた。


「こ、こんなの反則だっ。僕は心の準備ができてないのに。君たち姉妹はどうしてそう不意打ちをするんだ」

「してもいいって聞いても絶対、だめって言うでしょ」

「当然だ」

「恋人キスをしたい私と、全力で拒否するクコ。中間をとったらこうなっちゃいました」


 染めた頬を緩ませて彼女はつないだ手を引く。


「さっ、困った迷子たちを探しに行こ」


 いっせいに帰りはじめる見物客の間を、引っぱられ小走りで駆け抜ける。困った子は君だろう、と心のなかで抗議した。

 走りだす前から胸のなかはどきどきでいっぱいだった。

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