19-3 夏と花火と初めてのキッス
マリーはとにかくよく食べる。綿飴、りんご飴、フランクフルト、焼きそば、たこ焼き、いか焼き、ポップコーン、トウモロコシ、ソフトクリーム、かき氷。屋台で売っているおよそ全種類を制覇する勢いだ。君の胃はブラックホールか。
「クコと一緒だと楽しくて食が進んじゃって」
彼女はチョコバナナを片手にちろと舌を出す。僕をだしにしないでほしい。そんなにこづかいを使って大丈夫なのか。グミとミリーもなにかのキャラクターのお面を頭に斜めがけしてるし。
「そんなもの買ってどうするんだよ」
「お祭といったらこれだろ」
なー、ねー、とふたりはうなずきあう。安っぽい造りのわりに地味に高いのに。
「微笑ましくていいじゃない。ねっ、私たちも買おうよ」
マリーは屋台の一角を指差した。アクセサリーの店だ。だいぶ暗くなってきた会場でひときわきらびやかに輝いている。
おもちゃの屋台に見入っているグミとミリーに、そこから動かないよう指示して、アクセサリーの屋台に足を向けた。
僕たちが店の前に立つとおばさんが、いらっしゃい、と声をかけてきた。
イヤリング、髪留め、指輪、ブローチ、ネックレス、ブレスレットとあらゆる種類をとりそろえていた。
「私たちも、って僕も買うの?」
「そうよ。あ、これがいい」彼女は銀色のシンプルな指輪を取り上げた。「ペアリングだよ」
僕は、ええー、と声をあげた。装飾品なんてまったく興味がない。というかつけたくない。それに値札を見たら屋台の売りものにしては高めだ。
「ねえ、買ってよー」
「えっ、僕が出すの?」
「こういうのは男の子がプレゼントしてくれるものよ」
さも当然といった顔で彼女は笑う。
自分のぶんを買うだけでも抵抗があるのにふたり分だなんて。冗談じゃないぞ。
「ねっ、お願い」
「お兄ちゃん、こういうときこそ男を見せるチャンスだよ」
彼女が媚びるような目で見て、店のおばさんは煽りたてる。
嫌だ。絶対に買うもんか。




