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19-2 夏と花火と初めてのキッス

 日没間もなく、空はまだ少し明るかった。等間隔で頭上に渡された電球がもう灯っている。河川敷には多くの屋台が立ち並び、大勢の見物客で賑わっていた。

 夏の匂いをかき消すように、さまざまの食べものが香ばしい匂いを漂わせる。人々の喧騒にまぎれて警備員の誘導する声が聞こえた。

 日が落ちても空気は生暖かく、ときおり吹く川からの風が心地よかった。

 その川の向こうでは気の早いスカイハイタワーが、花火に先駆けて航空警告灯を瞬かせている。


「おまえ、本当に離れるなよ。僕までとばっちりを食うんだからな」

「わかってるわかってる」


 軽い調子でグミは答え、そこらじゅうの屋台を覗き込もうとしている。この人混みのなか、言ってるそばから迷子になりそうだ。大丈夫か。それにしてもあのふたり遅いな。


 僕が携帯端末の時計を確認しようとしたときだった。

 雑踏の合間に、前触れなくふたりの人影が出現した。マリーとミリーだ。


「おまたせ」マリーはうれしそうに笑った。「ごめんね。着つけとか調べてたら遅くなって」

「う、うん……」僕の胸は思いがけず跳ねあがった。


 彼女は浴衣姿だった。藍色の生地に赤や白の花が咲いて、黄色の帯が腰回りを包み込んでいる。花火がもう始まったのかと錯覚するほど華やかだ。髪はお団子にまとめられていた。まるで別の女の子のようだった。


「お母さんにおねだりして買ってもらっちゃった。似あうかな?」

「いいと思うよ」


 印象のがらっと変わった彼女にわけもなくどきどきして、ろくな感想が言えなかった。はにかむ仕草がことさら鼓動を駆りたてる。


「クコってばお姉ちゃんに見とれちゃって」からかうミリーにもうまく反論できない。「グミ、あんたもあたしにうっとりしてんでしょ」

「ふんっ、誰がそんな変な格好に。普通の服を着ればいいのに」


 無粋なグミに、子供なんだから、とミリーは赤い浴衣を一回転させた。


「そんなことより、屋台を片っ端から見て回ろうよ」とグミが駆けだした。

 ミリーがあとを追い、保護者の僕たちは、彼らを見失わないようあわてて続いた。

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