18-6 ナツい登校
「――で、宣言どおりほんとにアイスクリームにフラッペにアイスチョコレートを注文して、とどめにストロベリーパフェを頼んだんだよ」
僕はクリームパスタをフォークにからめながら母さんたちに語った。
「コクーンの夢でならいくら食べても夕食に響かないと思って、食べすぎだよ。一緒にいる僕のほうが恥ずかしかったよ」
「そんなことより聞いてよ」
グミがナイフとフォークを構えて話に割り込む。
「ミリーの奴、体育のときサッカーで俺にぶつかったのに謝らなかったんだ。それであいつにボール取られて点入れられて負けて最悪だよ」
僕とグミの代わる代わるの報告を、母さんと父さんは逐一うんうんとうなずく。食卓で話したいことが尽きないなんて、このところの生活からは考えられない変化だった。今までの冷めきった食事風景が嘘のようだ。
「兄ちゃん、今、俺が話してんだぞ」
「おまえの話は無駄に長いんだ。要点をまとめろよ」
「はいはい、順番に聞くから落ち着いて」
チキンソテーをナイフで切り分けながら母さんが笑った。父さんも「せっかちな息子たちだ」と笑みを浮かべる。つられて僕たちも笑い、また両親もそれにつられる。
微笑みの連鎖。今までの悪感情の循環とは正反対だ。コクーンを失うことの意味を改めて思い知らされる。
待ち望んだ、家族との会話がはずむ食事。なのに。
僕の心のすみでは、依然として不安がくすぶっていた。
もしまたコクーンが使えなくなったら。
今度のことで、父さんたちが使用制限をすることはもうないだろう。でもコクーンが物理的に故障したら。あるいはウラヌスの不具合でコクーンの夢にログインできなくなったら。
そんなことをいいだせば、食料、飲料水、電力、酸素の供給に支障が生じる可能性だってある。心配を始めたらきりがない。ウラヌスは信頼に値する、と父さんに力説したのは誰だ。
それでも、心のなかに忍び込んできた恐じ気は簡単に拭えない。
「どうかしたの、クコ?」
母さんが食事の手を止めて尋ねた。知らないうちに僕は黙りこくっていたらしい。
「なんでもない。学校を休んでいた理由のうまい言いわけがないかなと思って」
僕はクレソンを口に入れながら笑ってみせた。母さんの面持ちは和らがなかった。
「なにか心配ごとがあるなら言ってごらんなさい」
母さんが僕たちを見抜く目は鋭い。
大丈夫だから、別になにもないから、と何度もごまかした。ようやく取り戻した家族の団欒に水を差したくなかった。
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