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3-5 僕たちの婚約

 夕食後、彼女とゲームの再戦をした。ソフトを格闘ものに変えて挑んだ。結果は散々だった。とにかく強い。まるっきり歯がたたないわけじゃないんだけど、いつもあと一歩およばないというか。いいところまで追い詰めても、土壇場で逆転されるパターンが多い。


「もう僕は一生、君に勝てる気がしないよ」

「そんなこと言わないで。私だって負けそうなのをひやひやしながらやってるのよ。次は勝てるかもしれないよ」

「手を抜いてわざと負ける気だろ」

「しませんー。全力で叩きのめしますー」


 鬼か。ゲームに負け疲れた頃、家の電話が鳴った。そろそろか。案の定、隣のダイニングから母さんの声が聞こえた。


「マリー、帰ってらっしゃいって」


 はーい、と彼女は操作端末を大型モニター横のサイドボードに置いて立ち上がった。僕は一緒に通路に出てハッチまでついていった。彼女が帰るときは送るようにと母さんたちにいわれている。彼女がハッチを開けようとしたとき、向こう側から開いた。弟のグミがちょうど帰ってきたところだった。


 ただいま、とグミは無重力のダクトからするりと抜け出て床に着地した。母さん譲りの栗色の髪が船内の重力に引かれて落ち着く。僕と彼女が同時に、おかえり、と迎えた。彼女は「クコのうちでおかえりって言うのっていいよね」と笑った。僕は「そう?」と首をひねる。


「じゃあ、また明日ね、クコ」


 あまり広いとはいえないダクトの空間内に身を滑り込ませて、彼女は反対側のハッチまで泳いで行った。水中のように黒髪が無造作に広がる。下着が見えないようスカートを押さえているけど、いつも、なんとなく目のやり場に困る。向こうの船内に入りハッチを閉じる前、彼女は僕に手を振った。うれしそうだった。見送りは親にいわれてやってることだけど、今日はなぜか悪くない気分だった。僕もそっとハッチを閉じた。

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