17-3 心弾む夜
リビングのソファーにマリーが座った。そのそばに立っていると、母さんが「王子様はこういうとき隣についてあげるものよ」と僕の背中を押した。えと、そういうのは僕、苦手なんだけど。
弱る僕に気づきもせず、母さんはさっさとキッチンに行ってしまった。
しかたなく、僕はぎくしゃくした動きで彼女の横に腰を下ろした。
妙に緊張する。教室や食卓で彼女の隣に座るのはありふれたことだけど、一続きのソファーですぐ横に並ぶ機会はほとんどない。変に彼女を意識してしまう。特に、彼女を貶めるような夢を何度も見てしまった罪悪感、その夢で二度も粗相をした事実が後ろめたかった。
僕は彼女のほうを向けず、前のローテーブルに目を落としたまま固まった。
彼女は静かだ。盗み見るように様子をうかがうと、憂いを残した面持ちで、ぼんやりと宙を眺めていた。
案外話せないものだと思った。
会ったらいろんな話をしたいと考えていたのに、いざ本人を前にすると言葉が出てこない。三カ月で僕は、彼女と面と向かって話す方法を忘れてしまったのだろうか。
そばで賑やかな音が鳴っていた。グミとミリーがゲームで盛りあがっている。
まるで昨日も会ったかのように仲よく遊ぶふたり。電話ではあれほどケンカをしていたのに。僕たちとは大違いだ。小学生の単純さがうらやましかった。
母さんがトレイに乗せたホットチョコレートを持ってきた。僕やグミたちのぶんもあった。僕は甘いものは特に好きというわけでもないから別にいいのに。グミとミリーも、テーブルに置かれた飲みものはそっちのけでゲームに夢中だった。
彼女は両手でカップを包み込んでこくこくと飲んだ。僕もならって口をつける。泡だつ表面からたちのぼる甘ったるい風味が心地いい。適度な熱さで飲みやすく、固くなっていた気持ちをほぐしてくれた。僕としてはもっと甘さ控えめでもよかったけれど。
「おいしい」
ふうう――、と長いため息をついて彼女はつぶやいた。声のトーンが少し明るくなっている。暗いトンネルをようやく抜け出たような、人心地ついた顔をしていた。




