17-1 心弾む夜
ハッチの前に立つ。
禁じられた扉。三カ月以上もの期間、往来のために開くことは許されなかった絶望の出入口。今、その戒めは解かれた。
「俺が開けていい?」
グミが僕を見上げる。やっと迎えたこの瞬間だ。みずからの手で味わいたかったけれど、ここは兄としての度量を見せてやることにした。弟に喜びの権利を譲る。
グミが開閉ボタンを押した。ハッチがゆっくりと、開く。
ダクトのなかを泳ぐ影があった。
「クコっ……」
重力のない接続路をもどかしそうにもがき進んでくる少女の姿。
「クコ……!」
悲痛な思いを懸命に抑えて、三カ月の空白と、無重力の空間を越えて近づく幼なじみ。
「クコ!」
彼女はダクトを飛び出すとそのまま僕に抱きついた。
「マリー!?」
よろめきながらとっさに彼女の体重を支える。
「会いたかったよう!」
彼女は叫んだ。ため込みにため込んだ感情を一気に解き放つように、声を通路に響かせた。
「会いたかったよう! 会いたかったよう! うえええーん!」
泣きわめいた。僕の弟や、いつの間にか姉に続いて現れた妹や、僕たちを追ってやってきた母さんたちの前で、彼女は人目をはばからず思いきり声をあげた。
「会いたかった……会いたかった……クコに会いたかったよう……えええーん」
「マリー……」
僕は恥ずかしくなるのも忘れて、ぎゅっとしがみつく彼女を、そっと抱き締めた。
柔らかくて、温かくて、なにかいい匂いがして、大きな声をあげる、幼なじみ。
初めて抱く現実のマリーに、少しだけどきどきしたけれど、不思議とそれほど羞恥心はなかった。僕と同じ歳、同じ背格好なのに、まるで幼児のように泣きじゃくってて、小さな子をあやす心境に近かった。
「クコに会えた……やっとクコに会えた……やっと会えたよう……」
泣きながら彼女は思いの丈をとつとつと繰り返す。僕はただ、うん、とうなずいた。こんなにも思ってもらえてたことに胸がいっぱいで、うまく言葉が出てこなかった。
僕こそ、やっと君に会えて心の底からうれしいんだよ。暗くて冷たい船内の生活で乾ききった心に、マリーという名前の潤いを注がれて。




