表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/213

第96話 襲撃者

 俺は、青龍の剣を両手で持ち中段に構えながら、敵の様子を観察する。


 襲撃者たちは、向かいの建物の屋根の上、距離にして10m位か。追加の攻撃をしてくるわけでもなく、上からこちらを見下ろしたまま動かない。


 俺を名指ししての襲撃と言うことは、命令を出した黒幕がいるはずだ。末端のこいつらを倒したところで解決って事にはならないだろうな。ただの雇われかも知れないし、それに、人を斬るのも気が進まないし……。


 俺は一旦青龍の剣を鞘に納めると、収納倉庫(アイテムボックス)に戻す。


「おい! 誰の差し金だ? 白状するなら命までは取らないぞ?」


「……。」


 当然俺の問いかけには答えず、沈黙を保ったまま只たたずんでいる。

 まぁ、俺もハイそうですかと答えるとは思っていないがな。


 それにしても、動かないな。どういうつもりだ?

 何とか、こいつらの素性を暴く方法っはないだろうか。泳がせて、拠点を調べるにしても追跡ができるかどうかも怪しいしな。そもそも、それをしてくれる人材が居ない。


「 ! 」

 ふとある考えが頭に浮かぶ。俺は、地図機能を表示すると『盗賊』で検索する。すると、いくつかの赤い点が表示された。おぉ! 人でもちゃんと検索できるじゃないか。でも、位置的にこの赤い点はこいつらじゃないな。てか、街の中にも結構盗賊が潜んでるって事か。なかなか、物騒だな。


 俺は、次に『襲撃者』で検索をかける。すると、現在地から程近いところに赤い点が6つ現れた。

 ん? 6つ? 建物の上にいる5人の他にもう1つ赤い点がある。反対側の建物の影に隠れているようだ。

 なるほど、監視役ってところか。俺は、この1つの赤い点にマーカーを打つ。できるかどうか分からないけど試してみよう。


「来ないならこっちから行くぞ!」

 そう言うと俺は火の玉をイメージする。あまり大きくならないように……。


「ファイヤーボール!」


 ズシャッ! 


 音を出しながら生じた火の玉が、建物の上にいる奴ら目掛けて飛んでいく。


「うわっ!」

「くそっ!」

「ちっ!」


 そんな声を出しながら、襲撃者たちはファイヤーボールを避けるように逃げる。


「ファイヤーボール!」


 逃げた先に、もう一度お見舞いする。

「ウギャ!」

 1人に当たったようだ。変な声を出しながら、倒れている。


「くそっ! こいつ魔法も使えるのか!」

「聞いてないぞ!」

「このままじゃまずいぞ。」


 そんな台詞が聞こえてくる。結構動揺しているな。すると、


「タダノ・ヒデオ。これは警告である。明日の試合に出ることは罷り成らん。もし出た時は……」


「ファイヤーボール!」

 何か言っていたが、構わずファイヤーボールをお見舞いする。


「うわっ! 貴様! 卑怯だぞ!」


 いやいやいや、それお前たちだけには言われたくないわ……。


「ファイヤーボール!!」

 更に、もう一度。今度は威力を倍増してファイヤーボールを撃つ。ただし、これは奴らの頭上を掠めるようにした。威嚇射撃だな。


「くそっ! 覚えていろよ!」


 襲撃者たちは、お決まりの捨て台詞を吐きながら逃走していった。


「主様! 追いましょうか?」


「いやいい。ちょっとした作戦があるんだ。それより大丈夫だったか?」


「はい。」


「シルビアも大丈夫か?」


「だいじょうびです。びっくらしました。」


「そうか。怪我がなくて何よりだ。」


「で、主様。作戦とは?」


「ふふふ……。」

 含み笑いをしながら、俺は地図機能を開く。すると、先程打ったマーカーが移動している。作戦成功だな。


「うん。どうやら上手くいってるみたいだ。敵の黒幕を暴こうと思ってね。ちょっと、手を打っておいた。」


「よく分かりませんが、主様がなされることですからきっと大丈夫なのですね。」


「信頼してくれてありがとう。それにしても、やり方が下手だったな。」


「そうですね。何だか素人臭かった気がします。」


「俺もそう思うよ。あの感じだと暫くは大丈夫そうだな。」


「ヒデオ様〜。お肉はもうなしですか〜?」

 怖い目に遭ったというのに、この娘はお肉の方が大事なのかな……。


「そうだな、折角だから肉買いに行こうか。」


「やった〜! お肉〜!」

 シルビアが拳を振り上げ笑顔で叫ぶ。

 どうやら、襲撃された恐怖もそれほどでもなさそうだし、ひと安心かな。


「♪ お・にく! お・にく! お・に〜く〜をた・べ・よう。おう! お・にく! ……。」


 再びシルビアが怪しい歌を唄いながら歩き出す。


「シルビア。学習しろ! あんまり先に行くなよ。」


「はーい!」

 そう返事しながらも、未だ先頭を歩くシルビアであった。



「へい! らっしゃい! 何にしやしょう。」


「肉が欲しいんだけどさ。なんかこう、力が湧き出るような感じの肉ってないかな? ちょっと無茶振りかな?」


「なんだい兄ちゃん。まだ若いのに……。」


「いや。そう言うんじゃなくてさ。戦う前に食べると良さそうなやつ。」


「戦う前かい? で、予算は?」


「う〜ん。物によるかな。取りあえずどんなのがあるか教えてくれないかな。」


「それなら、ワイバーンの肉なんてどうだい?」


「ワイバーン? 食えるのか? 」


「勿論さ。ちょっと値が張るけどな、精力つくぜぃ。」

 俺とソフィアを交互に見て、ニヤニヤしながら店主が言う。絶対勘違いしてるな。


「なんかワイバーンの肉って固そうだけど……。」


「そりゃ鱗だろ。鱗の中は意外と柔らかいんだぜ。そうだ! ちょうど、パルウムワイバーンの子供の肉が入ったからそれが良いぞ。」


「パルウムワイバーン? どっかで聞いたことがあるな……。」


「小形のワイバーンの子供だからな、癖もないし柔らかいぞ。勿論上手くて精がつく。」

 店主がニヤリと笑いを浮かべながら、肉の塊を取りだす。


「だから、違うって……。」

 勘違い店主は取りあえず放置して、久しぶりに鑑定識眼を使ってみる。


『条件を満たした為

 スキル『鑑定識眼』が Lv.4になりました。』


 相変わらず、節操無しにレベルが上がるな。


ーーーーーーーーーーーーーー

【仔パルウムワイバーンの肉】


 パルウムワイバーンの子供の

肉。体力増強、精力増強に良い

とされる。

ーーーーーーーーーーーーーー


 店主の言っていることは嘘じゃないみたいだな。精力増強はいらないけど。


「じゃあ、これ貰います。いくらですか?」


「どれくらいいるんだい?」

 そう言いながら店主が包丁を握りながら聞いてくる。見たところ2,3kgはありそうな塊だ。


「それでいくらですか?」


「これか? これだけだと結構するぜ。大銀貨3枚ってとこだな。」


「じゃあ、それください。」


「お? この塊全部か? 兄ちゃん豪気だな。いや。ありがてぇや。まいどあり!」

 仔パルウムワイバーンの肉をひと塊購入した。


「そういや、オークの肉とかの浄化ってここでできるの? ピューリフィケーションだっけ?」

 肉を包んでいる店主に尋ねる。


「プリフィケーションです。」

 シルビアに突っ込まれる。ぼそっと言うのは止めようやシルビアさんよ……。


「それは無理だ。教会に行ってやって貰うかギルドじゃないとダメだよ。」


「そうなのか……、それは残念だな。」


「どうしてだ? 浄化なんて。」


「いや、討伐したオークの肉があるんでね。」


「そりゃ早いとこともっていった方が良いぞ。肉は鮮度が命だからな。熟成させるにしても、浄化は早いに越したことはない。」


「分かりました。ありがとうございます。」

 俺は、店主から肉を貰うと『収納袋』にしまった。


「おぉ、それは収納袋かい? 兄ちゃん若いのにやり手なんだな。」


「そんなことないですよ。どうも、ありがとうございました。」


「いやいや、こっちこそありがたいよ。また、何かあったら言ってくれや。」


 こうして無事肉を買うことができた。しかもワイバーンの肉だ。どんなのかちょっと楽しみだな。


「シルビア念願の肉だな。」


「はい! ワイバーンの肉ってちょっと怖い気もしますけど、美味しいのなら何でも大丈夫です!」


「帰ったら迎賓館のシェフに調理して貰おう。」


「はい! どんな料理になるのかな〜。」


「♪ お・にく! お・にく! わいば〜んのおにく ♪ お・にく! お・にく! わいば〜んのおにく……。」


 微妙にアレンジされた歌を唄いながらシルビアがご機嫌で歩いて行く。


「主様。浄化なら私ができます。必要ならいつでも言ってください。」

 ソフィアが近づいてきてぼそっと言った。


「え? そうなの? ソフィア浄化できるの?」


「はい。これでも天界に居ましたから、むしろ得意分野です。」


「てことは、治癒魔法とかも?」


「はい。」


「やた! それはすげーや。ソフィアが居れば安心だね! それって俺も使えるようになるかな。」


「今のままではどうでしょうか? でも、ヒデオ様にはアストレア様の加護とオルトゥス様の加護がありますからできるようになるんじゃないでしょうか?」


「そうなの! やった! 今度教えてね。」


「畏まりました。ただ、教えたからと言って直ぐに使えるとは限りませんよ。」


「大丈夫。使えれば儲けもんぐらいにしか考えてないからさ。」


「分かりました。」



 迎賓館に帰った俺たちは、早速シェフにワイバーンの肉を渡して今日の夕食にお願いする。


「ワイバーンの肉ですか。しかも子供……これは仔パルウムワイバーンの肉ですな。」


「流石だね。シェフ。凄い目利きだ。」


「恐れ入ります。」


「これで何か美味しい料理できる?」


「素材が良いので、どんな料理でも大丈夫ですよ。どういう調理がお好みですか?」


「そうだな。折角だからステーキなんて良いかも。」


「ステーキですね。畏まりました。」


「いつもありがとうね。」


「とんでもございません。それが仕事ですので。」

 こうして俺はシェフに仔パルウムワイバーンの肉を渡して調理をお願いした。


「ヒデオ様。ソフィア様。本日は勝利おめでとうございます。素晴らしい試合でしたね。」


「ネビルさん。ありがとう。あれ? そういや、ネビルさんどこに居たの? 今日会場に行ったんだよね。」


「はい。私とジェシカ、マリーの3名で行かせていただきました。」


「そうか。それならいいんだけど、会わなかったからさ。」


「私どもは第4層の後ろの方で見ておりました故、それに、かなりの人数ですので……。」


「そうだよね。でも、観戦できたんだね。よかったよかった。それにしても、ネビルさんが武術に興味があるとは知らなかったよ。」


「私も多少は嗜みますが、本日観に行ったのは孫が出ておりましたので。」


「え? 孫?」


「はい。」


「本選に出てたの? 誰? 一体誰なの? 今日は勝ったの?」


「はい。おかげさまで無事勝たせていただきました。」


「そう! それはよかった。で? 誰なの?」


「バニラ・クインベリーと申します。」


「えー! バニラちゃん? ネビルさんの孫なの? マジで?! 超びっくりなんだけど! ……あれ? でも家名がちがうよ。」


「はい。娘の子ですので。娘がクインベリー家に嫁ぎました故。」


「そうなんだ。でも、凄いね。予選から勝ち抜いて本選の2回戦にも残って……。」


「はい。このまま行けば準決勝では、ヒデオ様と当たることになりますな。」


「うっ……、それはやりにくそうだな……。」


「ヒデオ様、遠慮無くガツンとやっちゃってくださいまし。」


「そうなの?」


「はい。バニラはちょっと天狗になっているところもございますので、一度鼻っ柱をおられた方が良いのです。」


「とは言ってもなぁ。」


「遠慮は無用でございますよ。とは言え、明日勝てるとも限りませんしね。」


「それもそうだね。事が起こる前から心配するほど馬鹿らしいことはないもんね。」


「そうでございますな。では、私はまだ業務がございますので……、半日空けておりましたので色々と仕事が溜まっております故。」


「わかった。ネビルさんもいつもありがとう。」


「とんでもございません。それが仕事ですので。では。」

 そう言って、一礼するとネビルさんは部屋から出て行った。


 それにしてもまさかバニラちゃんがネビルさんの孫だったとは。びっくりだね。

 しかし、今日も濃い1日だったよな。後で、襲撃してきた奴の場所を確認とかしとかないとな。


 この日の、夕食はリクエスト通り仔パルウムワイバーンのステーキだった。厚切りに斬られた肉は中がほんのりとピンクのミディアムレアに焼き上げられ、塩と胡椒に似たスパイスが振られておりとても美味だった。

 個人的には山葵醤油で食べたいところだけど、我が儘は言うまい。でも、うちのシェフなら何とかしてくれそうな気もするけどな。


 俺は部屋に戻ると、地図機能を開いてマーカーを打った襲撃者の位置を確認する。マーカを付けた人物の居た場所から何となくその裏が想像できた。


「明日になれば、よりハッキリするだろうな。明日が、二重の意味で楽しみになってきたよ。」


 そう呟きながら、窓を見る。カーテンの隙間から月明かりが漏れている。窓から外を見ると、今まさに昇り始めた大の月が、まるで明日の出来事を暗示するかのように赤黒く輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ