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第93話 武術大会 本戦開幕

あけましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いします。

 今日はいよいよ本選のトーナメントが始まる。朝から大砲のような音がドンドンと五月蠅く鳴っている。


「おはようございます。ヒデオ様。夕べは良くお休みになられましたか?」


 ダイニングに行くと朝食の準備をしながら、ネビルさんが尋ねてくる。


「うん。おかげさまでぐっすり眠れたよ。」


「それはようございました。今日はいよいよ武術大会の本戦でございますね。ご健闘をお祈り申しあげます。」


「ありがとう。ネビルさん。」


「ヒデオ様。1つお願いがあるのですが。」

 珍しいな。ネビルさんが俺にお願い事をするなんて。


「なんだい?」


「本日、私ども使用人も武術大会を見学に行ってもよろしいでしょうか?」


「あぁ、勿論だよ。応援に来て貰えると嬉しいしね。是非そうしてよ。」


「ありがとうございます。では、皆と話して何人かで行かせていただきます。」


「うん。是非。楽しんでね。」

 そう応えながら席に着く。今日の朝食は、シカ肉のスープに新鮮な野菜のサラダ。ヨーグルト。そしてベーコンエッグだ。いつもながら、バランスがとれた美味しい朝食だ。迎賓館に来てからと言うもの、食事に関しては全く困ったことがない。かなり地球(あちら)の食事に近いものを感じる。一度シェフにお礼を言っとかないとな。最初に顔を見たっきり、話どころか全く会ってもいないからな。


「おはようございます。主様。」


「おはようソフィア。主じゃないだろ?」


「あ! おはようございますヒデオ様。」


「うん。おはよう。」

 昨日ソフィアを連れて帰った時、何か言われるかと思ったが、ネビルさん以下メイドの2人も何も言うことなく自然にソフィアを迎え入れてくれた。おかげで楽っちゃ楽なんだが、何も聞かれないと逆に言い訳がましく色々言っちゃうんだよな。

 取りあえず、『意気投合したので暫く一緒に行動する新しい仲間』という、ちょっと無茶っぽい設定で通すことにした。ま、あながち間違いでも無いから良いか。


「それにしても、シルビアは相変わらずお寝坊さんだな。」


「昨日ソフィア様と遅くまでお話しをされていらっしゃったので、まだ寝ていらっしゃるのでしょう。」

 ネビルさんが穏やかな口調で言う。それにしても、寝坊助だよシルビアは。ソフィアはもう起きてきてるんだからさ。


 俺とソフィアが朝食を取り終わる頃になって、ようやくシルビアが起きてきた。


「おふぁようごじゃいます……。」


「おふぁようじゃないよシルビア。起きられないのなら夜更かししたらダメだよ。」


「ふぁい。ごめんなふぁい。」

 相変わらず、寝起きが悪いなこの娘は。


 俺たちは、シルビアが朝食を取るのを待って屋敷を出た。勿論、今日も王城からの馬車が出迎えてくれている。

 いつまでも、甘えているわけにはいかないよな。と考える俺と、快適な迎賓館での暮らしを手放すのが惜しいと思ってしまう打算的な俺がいた。


 武闘技場に着くと、早速対戦表を確認しに行った。実は、昨日宴席の際に貼り出された対戦表を確認するのをスッカリ忘れていたのだ。だって、色々あったもんね。


 貼り出されていた対戦表は次の通りだ。


【Aブロック】

《第1試合》

○アクワ代表

 ロベール・リドフォード(M) 宮廷騎士団副団長

 VS

○第1会場覇者

 イーサン(M)


《第2試合》

○クルセ代表

 クレメンス・ザッハ(M) 冒険者ギルド推薦

 VS

○第2会場覇者

 ミネルバ・ノヴァク(F)


《第3試合》

○リマニ代表

 ベルトラン・コルドバ(M) 紺碧の(アジュール)騎士団副団長

 VS

○第3会場覇者

 ガラハッド・メルバーン(M)


《第4試合》

○アガルテ代表 グラハム・グラディウス(M) アルファ騎士団

 VS

○第4会場覇者

 ユースティティア(F)


【Bブロック】

《第1試合》

○アガルテ代表

 デュラン・ブラン オメガ騎士団副団長

 VS

○第5会場覇者

 バニラ・クインベリー(F)


《第2試合》

○アクワ代表

 トモエ・スタンホープ(F) 碧の薔薇騎士団(ブルウ・ローゼ)副団長

 VS

○第6会場覇者

 シュヴァイネ・インゲーンス(M)


《第3試合》

○アゴラ代表

 アーロン・ウェルブス(M) 蒼穹(そうきゅう)の騎士団副団長

 VS

○第7会場覇者

 アーサー・ロバート・クレイニアス(M)


《第4試合》

○国王推薦枠

 タダノ・ヒデオ(M)

 VS

○第8会場覇者

 マーク・クリストファー・ハイスヴァルム


 AブロックとBブロックは同時並行で実施される。


「昨日から思ってたんだけど、副団長ばかりが出ていて団長さんは出場しないんだな。」


「この大会は登竜門的な意味合いもあるので、各団体のトップは出場しないのが暗黙の了解なんですよ。」

 振り返るとマーガレットがそこにいた。


「あれ? マーガレットさん。今日は陛下のお世話はお休みですか?」


「ふふ。今日はヒデオ様とシルビア様の護衛を仰せつかっております。」


「俺の?」


「とは言え、ヒデオ様には護衛が必要ないでしょうから、主にシルビア様の護衛ですけど……。陛下からのご命令です。」


「あぁ、なるほどね。でも、マーガレットさん護衛もするんだね。」


「はい。私こう見えても宮廷騎士団の一員ですから。」


「マジか! てっきり陛下のお付きの人だと思っていたよ。」


「今のお仕事は主に陛下の護衛ですので、あながち間違ってはいませんよ。で、こちらの方は……あら? ユースティティア様じゃないですか。ヒデオ様お知り合いだったんですか? それとも……。」

 何故かジト目でマーガレットさんが見てくる。絶対勘違いしてるよな。


「知り合いなんだよ。俺も偶然で驚いてるんだ。」


「そうなんですね。わかりました。」

 絶対その目、納得してないだろ。未だ、ジト目で観てくるマーガレットを見て少々頭が痛くなってきた。

 しかし、大会中シルビアのことが心配だったけど、マーガレットさんがいれば安心だな。ありがとうアレク陛下。とは言え陛下としては別の目的があるんだろうけどな。


『出場選手は、地下中央広場までお越しください。繰り返します。出場選手は、地下中央広場までお越しください。』


 出場選手の集合を知らせる場内アナウンスが聞こえてきた。


「それじゃあ。行ってくるね。」


「はい! 頑張ってくださいね。ヒデオ様。」


「マーガレットさん、よろしくお願いします。」


「畏まりました。お任せください。」

 そう言って、マーガレットさんは胸をどんとたたく。意外と話しやすい人だな。そんなことを考えながら俺はソフィアと集合場所へ向かった。


 この武闘技場には、地階がありそこは大きな広間や控え室などがある。なんと贅沢なことに大浴場まで用意されているようだ。


 大広間に集まった16名の選手に今日のルールが説明される。大まかには俺が聞いていた内容とほぼ同じであった。ここで初めて知った事実と言えば、HPの登録は自己申告ではなく試合前に白い円柱に触ることで登録されるようだ。これは、不正を防ぐためとの説明があった。それにしても、一体どういった構造でそうなっているのか興味津々だな。


 自分の試合の1つ前までは、どこにいても良いらしい。俺は第4試合なので取りあえず観客席に戻ることにした。ソフィアも一緒だ。


 説明の後、観客席に移動しようとしたら1人の男に呼び止めあれた。前国王推薦のアーサー・ロバート・クレイニアスだ。昨日の今日だが、まだ言い足らないことがあるのかと思っていたが、どうやら様子が変だ。


「タダノ・ヒデオ殿。昨夜は大変失礼な物言いをしてしまったようで申し訳ない。この通り謝罪をさせていただきたい。」

 そう言って深々と頭を下げるアーサー。昨日の勢いはどこへやらだ。


「実はお恥ずかしながら、ほとんど覚えていないのだ。どうも酒を飲むと気が大きくなる()があるようで。本当に申し訳ない。」


 なるほどね。飲んだ時とそうでない時で人格が変わる人なんだね。


「大丈夫ですよ。気にしないでください。それよりも今日はお互い頑張りましょう。」


「はい。ありがとうございます。」

 そういって、アーサーは怖ず怖ずと去って行った。意外と気が小さい人なのかも知れないな。


 俺とソフィアが観覧席に戻るとシルビアはマーガレットとジェームズさんと一緒に座っていた。


「あ、ヒデオ様にソフィ……ユースティティアさん。もういいんですか?」

 シルビアナイスだ。良く名前言い直したな。それにしても、人前だけにしてもいつまでもユースティティアって呼ぶのは面倒だ。言いにくいし。この大会が終わったら、ソフィア・ユースティティアとしてみんなに紹介することにしよう。


「あぁ、事前説明があっただけだからな。出番の1つ前まではどこで観戦しても良いみたいだし。」


「そうなんですね。」


「おや、そちらのご婦人は昨日の縮地の選手じゃないのか?」

 ジェームズがソフィアを見ながらそう言う。


「よく分かりましたね。ユースティティアさんです。」

 俺がジェームズにソフィアを紹介する。


「ソフィア・ユースティティアです。よろしくお願いします。」

 ソフィアファインプレイだ。これで、普通にソフィアって呼べるぞ。


「ジェームズ・ドラモンドだ。よろしくな。」


「ジェームズさん、グラディウスさんは?」


「あぁ、奴は早々に控え室の方へ言ったぞ。集中したいんだとよ。」


「そうなんですね。そう言えば相手はソフィアなんですよね。」


「そうだな。それにしても彼女は強いな。Aブロックの大本命と言われているぞ。」


「そうなんですね。しかし、どうしてそんなことが分かるんですか?」


「あぁ、本選では賭が行われるだろ? その倍率が発表されているんだよ。」


「あ! そうだ! 忘れてた! ジェームズさんその賭ってまだ間に合いますかね。」


「確か第1試合が始まるまで大丈夫だったと思うが?」


「そうか! じゃあまだいけるな。ちょっと行ってきます!」


「あぁ、おいヒデオ殿! どこに行けば良いか分かっているのか?」


「あ! どこ行けば良いですか?」

 少し走ったところで俺は振り返りながらジェームズさんに聞く。


「正門前の特設会場だ!」


「ありがとうございます!」


 正門前には臨時の賭け受付場が設置されていた。なんだか特設宝くじ売り場みたいだな。

 暫く並んだ後、俺は自分に賭けておいた。俺が買った時点での倍率は21倍で6番人気だった。買ったのは、大金貨2枚! 驚かれると思ったけど結構貴族の人たちも賭けてて、掛け金としてはそこそこ多いくらいな感じだった。それでも、買う前に比べるとオッズが随分と下がっちゃったけどね。中には大金貨10枚賭けた強者もいるとかいないとか。豪気だよね。


 1番人気はリドフォードさんだ。やはり地元アクワの宮廷騎士団という肩書きもあり、1番人気となっていた。そして、なんと驚くことに2番人気がソフィアだった。並み居る騎士団を押しのけての2番人気は凄い高評価だ。決勝での縮地の印象が凄かったらしい。みんな以外とよく見てるんだな。

 以下3番人気がトモエ。4番人気がグラハム、5番人気がオメガ騎士団のデュラン・ブランだった。

 やはり、騎士団それも地元の人気が強いな。


 さて、野暮用も無事終えたし1回戦からしっかり観戦しないとな。


 俺が観客席に戻ったときには丁度第1試合が行われようとしていた。

 Aブロックがアクワ代表のロベール・リドフォード宮廷騎士団副団長 VS 第1会場覇者 イーサン

 Bブロックがアガルテ代表 のデュラン・ブランオメガ騎士団副団長 VS 第5会場覇者 バニラ・クインベリーだ。


 リドフォードさんとバニラちゃん、どっちも興味あるなぁ。

 どちらの会場もほぼ同時に選手が試合場に上がる。気をつけてみていると台に上がる前に白い円筒に手を当てている。一瞬碧く光ってまた白く戻る。どうやらこれが説明のあった登録のようだ。よく見ておかないと意外と気付かないもんなんだね。




「始め!」

 審判の合図がかかる。会場は割れんばかりの声援で大盛り上がりだ。さぁ、いよいよ武術大会本戦が始まった。俺もなんだかワクワクしてきた。

 「リドフォードさーん! 頑張れ〜!!」

 柄にもなく大きな声でリドフォードさんに声援を送る。気のせいかリドフォードさんがニヤリと笑ったような気がした。

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