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第87話 武術大会 開幕

ドーン! ドーン!! ドーン!!!


 朝、大きな大砲のような音で目が覚めた。なんだ? 敵襲か? そう思って窓から街の様子を見てみるが、見る限りでは至って普通だ。


 何だろうと思いながらも居間に行ってみると、ネビルさんが既にお茶の用意をして待っていてくれた。手早いな。


「おはようございます。ヒデオ様。」


「おはようネビルさん。ねぇ、あの大きな音はなんだい?」


「本日は4年に1度の武術大会の開幕日でございますから、それを知らせる合図でございましょう。」


「あぁ、なるほどね。そういや、日本でも昔、お祝い事の日は朝から花火がバンバン鳴ってた気もするな。にしてもどうやって?」


「魔法でございます。」


「なるほどな。」


 暫くすると、シルビアも目をこすりながら起きてきた。


「おはようシルビア。」


「……おはよう……ございます……ヒデオ様。」

 どうやらシルビアはまだ寝たりないようだ。


「ヒデオ様も、武術大会に出場なされるのでしょう?」

 ネビルさんが尋ねてくる。


「あぁ、そう言う事だったな……。今日はこの屋敷まで迎えが来るって聞いてたんだけど。」


「それなら、既にお屋敷の前に馬車が着いておりますよ。」


「えぇ! もう?! いくら何でも早くない?」


「まだ時間はございますから、しっかりと朝食を摂られてからお出かけになられると良いですよ。」


「待たせると悪いんじゃないの?」


「構いませんよ。待つのも彼らの仕事ですから。朝食を摂ってから出かける旨、ジェシカに伝えさせておきます。」

 笑みを浮かべながらネビルさんがそう言う。ネビルさんが言うのだから大丈夫なんだろう。たぶん……。


 そして、俺とシルビアは、しっかりと朝食を取ってから屋敷を出た。

 今日の迎えも前回と同様の馬車だ。只、今回の護衛は2人だった。


 多分俺の方が強いだろうから護衛なんていらないと思うんだけど、シルビアを守ってくれてると考えて納得しておくとするか。


 この武術大会は、俺が思っていたよりもかなり大がかりな大会のようだ。窓から外を眺めていたが、沢山の人がいる。まるで王国全土から王都に集まっているかのようだ。街は当にお祭り騒ぎであった。


 暫くして武術大会の開会式が行われる王立武闘技場に到着すると、俺たちは係に観戦する部屋へと案内された。

 そして今、ロイヤルボックスで国王陛下たちと一緒にいる。案内された部屋がここロイヤルボックスだったのだ。


「シルビアちゃん! 来てくれてありがとう! 逢いたかったよ!」

 そう言ってアレク陛下がシルビアに抱きついてくる。シルビアは一歩後ろにたじろぐが、流石に逃げることまではしなかった。がんばったなシルビア。

 それにしても、それはセクハラ&パワハラですぞ陛下。


 開会式では、各都市の代表のお披露目と紹介が行われている。

 この8名に加えてこれからの予選を勝ち抜いた8名が闘うことになるんだな。


 ここに来てやっと大会の概要が聞けた。多分まだ少しだけだろうが……。

 聞いた話によると、こうだ。


 この大会の本選に出場できる選手は、国内の大きな5都市から推薦される8名と、オープン参加で予選を勝ち抜いてきた8名の合計16名で、トーナメント戦で雌雄を決する。

 今日から2日間にわたって行われるオープン参加のための予選会には、王国中から腕に覚えのある猛者たちが集まってくる。


 最初の2日間でオープン参加の代表8名を決める予選会を行い。1日休みを挟んで4日目に本選のトーナメントの1回戦を、5日目に2回戦と準決勝を行う。さらに中1日休息日を挟んで7日目に決勝戦。と、実に7日間かけて行うのだ。そりゃ盛り上がるよね。因みに、3日目は、本選出場者をお披露目するパーティーが行われるらしい。


 俺が説明を受けていると、突然場内に大きな声が鳴り響いた。


『会場のみなさん! 本日、ロイヤルボックスには、アレキサンダー・ヘルムント・トゥル・アルセビアデス国王陛下がお見えになっています!』

 場内アナウンスで会場の大勢がロイヤルボックスに注目する。アレク陛下は立ち上がり観衆に手を振っている。

 その姿を見て開場は拍手喝采大盛り上がりになった。


「陛下ー!」

「アレクさまー!」

「きゃー!」


 どうやらアレク陛下は国民の人気者のようだな。


 それにしても、あの場内アナウンスはいったいどうやっているんだろう? そんなことを考えながら様子を眺めていると、

「場内への放送は、魔法を使っているんですよ。」


 そう教えてくれたのは、アレク陛下のお付きの1人マーガレットだ。

 歳は18才、ブロンドのロングヘアーを編み下ろしている。髪に結んだ碧いリボンがとてもよく似合うスレンダーボディの美少女だ。昨日から感じてたことだが、アレク陛下の侍女には美少女が多い。って言うか美少女ばかりだ。アレク陛下かなりの女好きとみた。尚、俺が何故この情報を得ているかは企業秘密である。


 しかし、そんな魔法もあるんだな。つくづく魔法って便利なんだな。まぁ、だから科学が進歩しないのかも知れないが……。


 そんな遣り取りをしていると、会場ではオープン参加の選手たちによる予選会が始まるようだ。


 この王立武闘技場の広さはサッカーコートがとれるほどの広さがあり、観客席は大きく反り立っていてかなりの人数が収容できる。地球のローマのコロッセオのようなイメージだ。


 観客席は4層構造になっており、ロイヤルシート以外は1層から身分の高い人が座れるようになっている。最前列の第1層が王族や貴族、第2層が騎士クラス、第3層が裕福な市民そして第4層が一般市民と言った具合だ。ロイヤルボックスは安全面を考慮して、第2層と第3層の中間当たりに設置されている。


 試合はそのサッカーコートがとれるほどの広い会場を8等分して、同時進行で行われる。


「そう言えば、陛下。私はどういう枠で出場するんですか?」

 急に参加することになったので、どういった枠で出場することになっているのか、ふと疑問に感じて俺は陛下に聞いてみた。


「国王の推薦枠だよ。」

 アレク陛下が無邪気な子供のように言う。……まぁ子供なのだが。


「それって、他の人に決まってたってことはないですよね。」


「決まってたよ。各都市の代表はそれぞれの都市で数ヶ月かけて予選をするんだ。開催の数ヶ月くらい前には決まってるよ。」


「え? それって……いいんですか?」


「別にいいんだよ。僕が決めたんだからさ。ね! ガストン。」


「はい。全ては陛下の御心のままに。」


 って、それで本当に良いのか? 聞くところによると、変更させられた選手は今日からのオープン枠の予選に出場しているそうだ。まぁ、こういうことは良くあることらしいのだが、この日を目指してやって来た選手たちにとったら良い迷惑だよな。しかも、その感情はきっと俺に来るな。出たくて出るわけでもないのに良い迷惑だよ。


 予選は順調に進んでいるようだ。武術大会と言うくらいなのでこの大会は基本武術を競う。魔法による攻撃や防御は基本禁止。ただし、付与魔法による効果は認められている。その当たりの線引きは具体的にどうするのかは聞いていない。というより、どうやら雰囲気で決めてるようだ。呪文を詠唱するかどうかも大きな判断基準らしいが、俺は無詠唱だからな。こそっと魔法使ってもバレないかも……なんて考えるのはせこいかな。


「ところで、武器は実剣を使っているようだけど、怪我とかの心配はないのか? 下手したら怪我だけじゃ済まないんじゃないかな?」

 俺の独り言を引き取って答えてくれたのは、やはりマーガレットだった。マーガレット耳が良いな。


「出場選手には、ダメージを肩代わりする魔法がかけられているんですよ。ですから、基本怪我はありません。それに、万が一のために治癒魔法士が待機しています。それでも、過去の大会で治癒魔法士が出たことは一度もありませんよ。」


「そうなのか。魔法って万能なんだな。」

 よく見ると、各試合場には高さ2m程の白い円筒形のようなオブジェが設置されている。


「あの筒は?」


「あの筒がダメージを肩代わりするんです。初めに選手のHPを登録して、それからダメージを受けた分だけ減っていくんです。色も白から黄色、赤色と変わっていきます。赤になったら負けです。」


「へー凄いな。一体どんな仕掛けなんだろう。」


「「「ウォーーーーー!!!」」」


 そんな会話をしていると、突然大きな歓声が沸き上がった。どうやらここから見て一番端の会場で何かあったようだ。


「何があったのかな?」

 誰とはなしに俺が呟く。


「どうやら第7会場ですね。」

 マーガレットが答える。


「第7会場に有力な選手がいるようですな。」

 ガストン宰相も気になったようだ。詳細を確かめるため、お付きの兵士に様子を見に行くように指示していた。


「あれはアーサー殿ですね。」


「アーサー?」


「はい。アーサー・ロバート・クレイニアス。ヒデオ様の前に陛下の推薦を受けていた選手です。」


「マジか。それは心中複雑だな。勝って欲しいという気持ちと戦いたくないって気持ちが入り交じってる感じがする。」


「気にされる必要は無いと思いますよ。」

 マーガレットはあっけらかんとそう言う。


「それにしても、マーガレットは目が良いね。」


「それほどでもないですよ。」

 マーガレットはそう言うけど、確実に俺よりは目が良い。確か俺は視覚強化がレベル3だけど、装備付けてるし顔なんて分からない。ということは、マーガレットの視覚強化はレベル4以上か。耳も目も良くて勘も良い……おまけにスレンダーで可愛い。要注意かもだな。


 その後も予選は順調に消化されていく。流石に1日目は有象未曾有な者も多く見られる。記念出場って感じの選手もいるしな。これを2日かけて8人に絞るのか。こりゃ大変だな。


「ヒデオ様。あそこの会場、なんか凄いです。」

 シルビアが指さす会場を見ると、確かに緊迫した試合をしていた。1人は大柄な選手で3mもあろうかという大槍を持っている。片や小柄だがかなりの俊敏性を持っている。武器は2本の短剣だ。パワー対スピードの対決だな。


「シルビアはどっちが勝と思う?」


「私は、小柄な選手が勝つと思います。」


「お! なんだか確信持っているな。どうしてそう思うんだ?」


「大っきい人は見たまんま強そうなので、小さい人を応援したいんです。それに女性みたいですしね。」


「……そういうことね。」

 何かを期待した俺が間違っていたんだろうか……。


「「「ウォ−−−−!!」」」


 そんなことを考えている間にその勝負は終わってしまっていた。大柄選手の陣営の筒が赤く染まっている。どうやら、シルビアの()()()()小柄な選手が勝ったようだ。 


「予想が当たったねシルビア。」


「あ、その言い方何か意地悪な感じです。」


「ははは。でも、当たりは当たりだよ。第六感って奴かも知れないな。結構そう言うのは大切なんだぞ?」


「そう言えば、当たりと言えばこの大会って賭ってあるんですか?」

 近くにいたので、マーガレットに聞いてみた。


「本選になると、賭けが行われます。あ、でも出場者とその関係者は制限がありますけどね。」


「なんだ。やっぱそうか。その辺緩いのをちょっと期待してたんだがな。」


「とは言っても、どこまでを関係者とするかはなかなか決められないので、実際には抜け道はいっぱいありますけどね。どなたかに賭られるつもりなのですか?」


「他の選手はどんな人か分からないからな。賭けるとしたら自分にだよ。」


「素晴らしいですね。流石です。」


「そう言う事じゃなくてね。そうでもしないとモチベーションが上がらないからさ。」


「モチべー?」


「あぁ、やる気が出ないって事だよ。」


「確か出場選手は自分にだけはかけられたんじゃないか? どうだ?」

 リドフォード副団長が近くの兵士に尋ねる。っていうか、副団長いらっしゃったんですね。


「はい。出場選手は当人が勝つことにはかけることができます。」


「だそうですよ。ヒデオ様。」


「ありがとうございます。リドフォード副団長。」

 俺は、頭を下げて礼を言う。


 そうか。本人にかけるのはOKか。報奨金もあることだしちょっとやってみようかな。


「ヒデオ様。何か良からぬ事を考えていますね。悪い人の顔になってましたよ。」


「そ、そんなことないよ。」


 大会1日目を見たおかげで、何となく会場の雰囲気を掴むことができた。2日目は予選枠の8名が決まる。いずれ闘う相手かも知れないからな。明日は、もうちょっと真剣に見ることにしよう。


 俺とシルビアは、明日に備えて午前中だけ観戦して、午後からは迎賓館で休息することにした。

 帰りに、アクワの街で買い物を楽しんだのは言うまでもない。

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