第84話 それぞれの想い
「どうしたの? ヒデオ。いきなりでビックリした?」
リナにそう言われて、少し正気を取り戻す。
「あ、あぁ。ビックリした。いつ王都に来たんだ?」
「3日くらい前かな。」
「例の開店準備でだろ? 順調なのか?」
「そうね。結構順調に進んでいるわよ。」
「そうか。よかったな。」
「ヒデオ?」
「なんだ?」
「言いたいことがあるんじゃないの?」
「あ、あぁ。いや……、さっきも聞いたけどさ。何でここにリナがいるんだ?」
「ふふ……やっぱりそれが一番気になる?」
「あぁ……。」
リナがここにいる理由を言わなかったので、聞かないまま会話を続けてたが、やっぱり顔に出てたか。
「そうだな。やっぱり気になるわ。よかったら教えてくれるか?」
「良いわよ。別に隠すつもりはないから♡」
そういって、艶っぽい表情をする。
「アガルテの時と同じよ。頑張った召喚勇者さんに優しくしてあげてくれってお願いされたの。」
「なんだそれ、王都ではまだ店始めてないんだろ?」
「昔お世話になった人が、ここの軍にいてね。私が、挨拶に行ったときにお願いされたのよ。」
「どうなんだか……。」
「あら。信じてないの?」
「俄にはな。」
「私が召喚されたのはここ、王都なのよ。その時にお世話になった人なの、断れなかったのよ。それにね。相手が召喚勇者だって言うじゃない? それってヒデオしかいないじゃない。ここに来ればヒデオに会えるかなって思ったのよ。迷惑だった?」
「いや。迷惑じゃないけどさ。ちょっとビックリした。」
「逢えて嬉しくないの?」
「いや……。嬉しいよ。」
「そ。よかった。」
そう言ってリナが笑顔で両手を広げる。
俺は少し考えて、結局リナを抱きしめた。
「どう?」
「あぁ、リナの匂いだ。」
「なにそれ。でも嫌じゃないんでしょ?」
「あぁ、気持ちいいよ。」
そう言いながら俺はリナの唇に唇をを重ねた。
「やっぱり好きだな。」
俺はぽつりとそう呟く。
「私もよ。」
リナがそう言うと、俺はもう一度をリナの唇に重ねた。
「リナがどういったことをしているのかはよく分からない。でも、それでも今はリナのことが好きだと思う。俺は今の自分の気持ちを信じることにするよ。」
「ふふ。よかった♡」
そう言いながら、リナが離れていく。
「それはそうと、またまた大活躍したそうね。」
「たまたまだよ。」
「たまたまではできないわよ。」
「今回は王国の勇者もいたからな。」
「あら、サラも一緒だったのね。」
「なんだ? サラを知っているのか?」
「そうね。同郷のよしみって言う奴かしら?」
「まぁ、王都で暮らしてたのなら接点が無いわけでも無いだろうけど。それにしてもな……。」
「ところで、貴方武術大会に出るんだって?」
「よく知ってるな。ついさっき言われた所なんだけどな。」
「ふふふ♡ それは内緒よ。それはそうと、是非出ると良いわ。」
「そうなのか? なんだか面倒なことに巻き込まれそうな予感がビシバシするんだが?」
「この先、貴方を認めないって言う輩がこれからいっぱい出てくるだろうからさ。先に力を見せておいた方が良いと思うわよ。」
「まあ、そう言う考え方もあるかも知れないけどな……。」
「それに、この先貴方の発言権があった方が良いこともあると思うわ。」
そう言って、リナは2階から見える庭園にいるアレク国王とシルビアを見る。
確かにな、そう言う事が必要なこともあるかも知れないな。
「わかった。前向きに検討するよ。」
「なぁに、そのどっかの役人みたいな答弁は。まぁいいけど。」
「あら、お二人さん戻るみたいよ。」
庭を見ていたリナが言う。
「そっか。それなら俺も戻ろうかな。また逢えるか?」
「そうね。私は一度アガルテに戻るけど、その後は王都で暮らすつもりだからきっと逢えるわよ。」
「そっか。帰るったって直ぐじゃないだろ? 武術大会見てけよ。」
「あら。出るつもりになったの?」
「いいじゃねぇか。それよりどうなんだよ。」
「ふふふ。いいわ。見に行ってあ・げ・る♡」
「いちいちエロ顔しなくてもいいんだって。」
「ふふふ。なんだか懐かしいわね、このやりとり。」
「そうだな。そんなに長い間一緒にいたわけでもないのにな。」
「さ、そろそろ行かないとシルビアちゃんきっと困ってるわよ。」
「そうだな。じゃあ行くわ。またな。」
そう言って、もう一度リナと抱擁して俺は部屋を出て行った。
その後、部屋に残ったリナが一人寂しそうな顔をしながら窓の外を眺めていたことを俺は知らない。
☆
「あ! ヒデオ様! どこ行ってたんですか?」
「いや。ちょっとな。」
「何か怪しいですね。」
「何でもないよ。」
「ヒデオ殿。今日はとても楽しかったぞ。また来てくれ。」
「はい。分かりました。陛下。」
当たり障りのない会話をした後、俺とシルビアは王城を後にした。
帰りも馬車で送迎すると言われたが、折角なので王都の街を歩くことにした。
「ヒデオ様! あれ見てください。素敵!」
シルビアが駆け込んだのは、衣類を販売している店だった。
「シルビア何か気に入った物でもあったか?」
「このドレスが素敵だなーって思って。」
「そうか。今日の服装もなんだか気に入らなさそうだったもんな。」
「そんなことないですけど。」
そう言いながら、シルビアは俯きながら気恥ずかしそうにする。
「シルビア。今度報奨金貰えることになったからさ。何か服買ってやるよ。好きなの選んでみなよ。」
「え−、それは申し訳ないですよ。」
「そんなことはないぞ。シルビアが綺麗な服を着ているのを見ると俺も嬉しいからな。」
「え……そうですか?」
心なしか頬を赤らめながらシルビアがぼつりと言う。
「そうだよ。さ、色々見てみな。」
そんなことを話していると、1人の店員が揉み手をしながらやって来た。
「これはこれは、いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」
それにしても、どうしてこう店員は揉み手をしながら近づいてくるんだろう?
「この娘のドレスを捜してるんですけど、良いのありますか?」
「これはこれは、お美しいお嬢様ですな。当店は王都でも1、2を争う品揃えを自負しておりますので、きっとお気に召す物を見つけられると思いますよ。」
「そうですか。良かったなシルビア。」
「で、どのようなドレスをご所望でしょうか?」
「そうだな。王城に行くときに着ても良さそうな物って感じかな?」
「王城にでございますか? そのような機会がおありなのですか?」
「あぁ、アレク陛下にもちょくちょく来て欲しいと言われたばかりだからな。」
「アレク……もしやそれは、アレキサンダー・ヘルムント・トゥル・アルセビアデス陛下のことですか?」
「他に国王陛下っているのか?」
「いえいえ、そう言う訳では。勿論国王陛下は唯一無二の存在であらせられますが……」
それにしても、あのクソ長い名前を良くスラスラと言えるもんだな。
「もしや、あなた様方は止ん事無きお方なのでは?」
「そんなことはないよ。でも、この娘は一応ソリスの姫様だけどな♡」
そう言ってシルビアを見ると、案の定脹れっ面をしていた。
「もう! ヒデオ様! それはもう言わないでください!」
そう言いながら、シルビアに鳩尾当たりを肘討ちされた。地味に痛いぞシルビア……。
「それはそれは。それでしたらこちらのドレスなどいかがでしょうか?」
そう言って店員が、きらびやかなドレスが吊されたいるコーナーを指さす。
「だって、どう? シルビア。」
「うーん。どれも素敵だとは思うけど、私にはちょっと派手じゃないかなぁ。」
「そんなことはございませんよ。あなた様のように美しい方なら、どのようなドレスをお召しになっても大丈夫ですよ。」
そんな店員のセールストークにシルビアはまんざらでもなさそうに頬を赤らめて嬉しそうにしている。
既に安い客になってるんじゃないか?……。
「他にはないの?」
「そうですね。既製品で置いてあるのはここにある物が上等の品なのですが、後はオーダーメイドになります。」
「そうなのか。」
「はい。当店でドレスを所望されるお客様は、オーダーメイドで作られる方が多ございますね。」
「だよなー。それじゃオーダーメイドで作るか? シルビア。」
「えぇー。それこそダメですよヒデオ様。私にそんなの勿体ないですよ。」
「そう言う訳にもいくまい? これから幾度かそういった機会もあるだろうからさ。何着か作って貰っておいた方が良いんじゃないか?」
「でも……。」
「お金なら心配するなよ。いくらかは知らないけど報奨金も入るしさ。」
「はい……。」
「それじゃあさ、オーダーでお願いしたいんだけどどうしたら良い?」
「採寸したり、生地を選んだりしていただくのですがほとんどのお客様はお屋敷に窺ってさせていただきますもので、こちらにはそう言った止ん事無き方をお通しする場所がありませんで……。」
「別に、止ん事無き方ではないから仰々しい場所じゃなくても良いけど?」
「はぁ……。」
どうやら店員は、少し困っているようである。ひょっとしたらお金を払えるかどうか屋敷を見て判断してるのかも知れないな。オーダー取ってから引き取って貰えなかったら大損だしな。一見様お断りって奴かもな。
「わかった。じゃあさ、俺たちこの後暫く王都の街をぶらぶらしてから戻るからさ。あとで、屋敷まで来てくれる?」
「はい。畏まりました。で、どちらのお屋敷に伺えばよろしいですか?」
先程とは打って変わって顔が明るくなった店員が聞いてくる。
「この先にある、迎賓館まで来てくれれば良いよ。屋敷の者には伝えとくからさ。」
「迎賓館でございますか!?」
「そんなに驚くことか?」
「あそこは、国賓級のお方がお使いになる場所ですから……と言うことはやはりあなた方は……。これは、大変失礼いたしました。申し遅れました。私この店の主でマルセロ・ベントゥーノと申します。どうぞよろしくお願いいたします。」
「タダノ・ヒデオです。どうぞよろしく。この娘をイメージして似合いそうな物をお願いするね。そうだな、可憐な感じで派手すぎないのが良いかな。」
「承知いたしました。必ずやお気に召していただける物をご用意いたします。」
「で、いいかな? シルビア。勝手に決めちゃったけど。」
「私は大丈夫です。申し訳ありませんヒデオ様。」
「シルビア。こう言うときは申し訳ないじゃないよ。なんて言うの?」
「……ありがとうございます。」
「はい。よろしい。良くできました。じゃあ、お願いね。」
そう言って、俺たちは店を出た。
その後、いろんな店を見て回ったり買い食いをしたりした。流石王都だけあって、様々な物が流通しているようだ。特に、スィーツの出店が他よりも充実している。クレープっぽい物やお好み焼きっぽい物もあった。
そう、街を歩いていて気がついたのだが、意外と日本と共通するようなモノがあったりする。この辺は、日本からの召喚者の影響が結構あるようだ。思っていた以上に召喚者の影響を大きく受けているのかも知れないな。
こうして、俺たち2人は街ブラをしつつ迎賓館まで歩いて帰ったのであった。




