表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/213

第83話 茶会と再会

 謁見の後、暫く控え室で待たされていた俺たちだが、お茶会の準備ができたのでついて来るようにと迎えが来て言われた。


 お茶会が開催されたのは、王城の見事な庭園を見渡すことができる部屋だった。部屋の一面がほぼガラス張りになっており、そこからは美しい庭園がよく見えた。窓からは穏やかな陽射しが降り注ぐ、とても穏やかな気持ちになれる部屋だった。

 俺たちは、勧められた椅子に座り国王陛下が来るのを待つ。


「シルビア、お茶会に参加するのは嫌だったか?」


「そう言う訳ではないのですが、何となく気が進まなかったのは事実です……。」

 少し俯きながらシルビアが答える。


「やっぱそれは国王陛下か?」


「はい。ちょっと……。」


 シルビアの戸惑ったような表情を見ながら考える。確かにあの少年国王陛下のシルビアを見る目は下心を感じさせたな。シルビアがそこまで思わなかったにしても、何となく違和感を感じて気が進まないのも分かるな。


 まぁ、直ぐどうにかなることもないだろうけど、ちょっと気をつけておこうかな。


「国王陛下がいらっしゃいました。」

 メイドがそう言ってドアを開けると、続いて国王と宰相が入ってきた。俺とシルビアは席を立って直立不動で迎え入れる。


「召喚勇者殿、シルビア様。お待たせした。」

 ガストン宰相がそう言っている間に、国王陛下が席に着く。ガストンに促されて俺とシルビアも続いて着席した。


「今日は、茶会の誘いに応じていただき感謝する。」

 ガストン宰相が殊勝な言葉を言う。思ったより意地が悪いわけでもないようだな。


「シルビアちゃんは、彼氏いるの?」

 アレキサンダー国王がいきなりセクハラトークを始めた。


「い……いえ、そんな……。」

 シルビアが顔を赤くしながらもごもごしていると、


「えー! 本当! じゃあ僕が彼氏になってあげる。」

 無邪気にそう発言する。やっぱ子供だなぁと思いながらも一応これでも国王陛下だろ? 問題ないのか? そう思いながらガストン宰相を見るが、うんうん頷いているばかりで何か行動を起こす気配もない。


「え……そ、それは……。」

 そう言葉に困りながら、シルビアが助けを求める子犬のような目で俺を見る。


「陛下。発言をお許しいただいてもよろしいでしょうか?」


「構わん。ここは公式な場ではないからの。自由に発言するが良い。だよな? ガストン。」


「はい。陛下の御心のままに。」


「よいぞ。召喚勇者、申せ。」


「ありがとうございます。シルビアはまだ未成年ですのでそのようなお話しはまだ早いと存じます。」


「そうか? 余も未成年だが特に問題はないぞ? なぁ、ガストン。」


「はい。陛下の仰ることはもっともでございます。」

 国王陛下に向かってそう言った後、俺に向き直りガストンが言う。


「召喚勇者殿。陛下のお言葉に異を唱えるとはいかなる所存かな。」

 国王に向ける顔と同じとは思えない程その表情には睨みが利いていた。


「異を唱えたわけではございませんが、シルビアは現在親元を離れて暮らしております故、私が保護者代わりのつもりでございますので。」

 そう言うと、一番驚いた顔をしたのはシルビアだった。あんぐりと口を開けて、俺の方を見る。その後、少し俯くと頬を膨らませて拗ねていた。なんで?


「じゃあさ、友達なら良いだろ?」

 屈託のない表情で国王陛下がそう言う。


「どうだ? シルビア。」

 俺はシルビアの方を見ながら聞く。


 そうすると、顔を上げたシルビアはぎこちない笑顔を作りながら

「もちろんですわ。陛下。私のような者で良ければ。」

 そう言うと、俺の方をきっと睨んでから再び国王陛下には笑顔を向けていた。

 あれ? 俺、何かシルビアを怒らせるようなまずいことしたかな?


「しかし、国王陛下。お友達とおっしゃいましてもどのようなことをすれば良いのですか?」

 俺が国王陛下に尋ねる。


「時々王城に来て、こうやってお茶を飲んでくれたり、お話をしてくれれば良いよ。」


「そうですな。王城には陛下と年の近い者がなかなかおりませんからな。陛下の御心にも良いことでしょう。」

 満足そうな顔で宰相がそう言う。


「シルビアちゃん、僕のことはアレクって呼んでね。母様とか姉様にはそう呼ばれているんだ。」

 屈託のない笑顔で国王陛下がそう言う。国王と言ってもまだまだ子供なんだな。そう思いながら、しばらくは様子を見ることにしようと考える俺であった。


「じゃあガストン。シルビアちゃんと庭に出ても良いか?」


「シルビア様がよろしければ。」


「いいよね。シルビアちゃん!」


「はい。わかりました。」

 シルビアがそう言うと、アレク国王はシルビアの手を取り、部屋から直接庭園に出ることができる扉から庭園へと駆けだした。あわてて、護衛の兵士が2人後をついて行った。


「陛下にも困ったものだな。まだまだ幼いところが……。」

 ガストン宰相が、首をふりふりそう呟く。


「仕方がないのではないですか? 事情は分かりませんが、あのお年ですから。」


「まあな、陛下もまだ12才であるしな。」

 あ、12才だったんだ。もうちょっと小さいのかと思ってたぞ。


「して、ヒデオ殿。此度のクルセでの討伐の報償のことだが……。」

 宰相が報償のことに話題を切り替える。


「クルセは王国の直轄地でもある。それ相応の礼をしたい。勇者サラ殿からも、貴殿の活躍は聞いておる。望みの物はあるか?」


「そうですね。失礼になるかも知れませんが、こちらに来て間もないので手持ちがそんなに多くありません。できましたら金銭を頂戴できたらと思います。」


「そんなことで良いのか? この国での地位や役職も望みのモノを与えることができるぞ。貴族位を与えても構わんしな。」

 役職なんて貰ったら、仕事をしないといけなくなるし、貴族位なんて妬み嫉みが渦巻いて碌な事になりそうもないしな。お金が一番気楽で良いよ。


「いえ。私のような外様がそのような待遇を頂戴すれば、不協和音が生じる元となるやもしれません。それはご辞退申しあげます。」


「そうか。それでは、追って使いの者に届けさせよう。本来なら、再度謁見して、公式に手渡したいところではあるのだが、こちらにも色々と事情があってな。武術大会が明日に控えていることもあるし、申し訳ないがそのようにさせてくれ。」


「いえ。とんでもございません。褒賞をいただけるだけで十分でございます。」


「そうか。そう言って貰うとありがたい。それとは別に、今日用意した()()がある。」

 そう言って、宰相が手を挙げると部屋に控えていたメイドが1人近づいてくる。


「召喚勇者殿を例の場所にお連れしろ。」


「畏まりました。」

 そう言うと、そのメイドは俺の方へ向き直り、ついてくるように促す。


「それでは、召喚勇者殿。私はここで失礼する。あとは、その者にまかせてあるのでついて行くが良い。」


「はい……。」

 いまいち状況が飲み込めないが、ここじゃない場所に何かお礼の品でも用意してくれてるのかな? そんなことを考えながら俺は宰相に一礼した後、部屋を出てメイドについて行く。


 メイドについて行って案内されたのは、先程いた部屋から1階上に上がった部屋だった。その部屋の前で止まるとメイドがこちらを向いて俺に言う。


「召喚勇者様。こちらでございます。私は、ここでお待ちしておりますので何かあればお声掛けください。」

 メイドはそう言って部屋の扉を手で示す。


 状況はまだ良く状況を掴めていないが、取りあえず部屋に入れってことなんだろうな。


「わかった。」

 そう短く答えた俺は、扉を開けて部屋の中に入る。


 その部屋は、アガルテの要塞城であてがわれていた部屋と同じようなつくりの部屋だった。来客用の寝室かな? アガルテのモノより少し大きい感じのその部屋は、華美すぎない内装と装飾品が程よい感じにまとまっていた。


 この部屋に一体何があるんだろうと、部屋を見渡していた俺は思わず身構えた。

 窓の傍に人がいたのだ。人がいたのは別段問題ではない。俺の気配察知に引っかからずにそこにいたのが問題なのだ。同じ部屋にいながら、気配を感じないなんてどれだけの手練れなのか想像もつかない。


 俺は、細心の注意を心がけながら対象に近づいていく。すると、窓の外を見ていたその人物が振り返る。


「どうやら陛下はシルビアちゃんを気に入ったみたいね。」

 そう言いながら振り返った人物は、俺の良く知る者であった。


「リナ……。なんで? どうしてここにいるんだ?」


「久しぶりねヒデオ。元気にしてた?」


 部屋の中にいた不審人物だと思っていたのは、リナであった。カトリーナ・オルドイーニ。アガルテでは()()()()()()()()()()()()女性だ。少なからずとも、俺は、俺の良き理解者であり、良き友だと思っている。そんな信頼を置いている人物が何故王城のこんな部屋に?

 混乱している俺の頭では、直ぐには自分を納得させる答えを導くことができなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ