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第79話 勇者の遺産 その3

「召喚勇者って……俺以外にもいたのか!」


「そんなに驚くことなの?」


「だって、勇者として召喚されたのはほぼ100年ぶりだって言われたぞ。」


「あら、それは正しいわよ。貴方は100年振りに召喚された勇者よ。」


「じゃあ、俺の後に召喚されてきたって事か?」


「いいえ。違うわよ。」


「じゃあなんだよ。どういうことなんだよ。」


「あらあら、質問が止まらないわね。もう既に3つの質問に答えてあげたわよ。大サービスね。」

 人差し指を口に当てながら、イタズラっぽく彼女が笑う。


「なっ! もう質問には答えないって事か?」


「ふふふ。どうかしら。……そうね。次に会えたときに、また色々教えてあげるわ。」


「次っていつだよ。そもそも、また逢えるって保証はあるのか?」


「貴方本当に質問が多いわね。そんなんじゃ、女の子に嫌われちゃうぞ?」


「仕方がないだろう。分からないことだらけなんだから。」


「そもそも、世の中分からないことの方が多いはずよ。何でも知っておかないといけないとか、何でも自分がしないといけないとかって法はどこにもないのよ。まぁ、私がそれを言う資格はないかも知れないけどね。」


「一体全体何がどうなってるんだよ。ちょっと展開が急すぎて頭が追いつかないじゃないか。」


「あら、あなたエキストラスキルで思考加速を持ってるんじゃないの?」


「何でそんなことまで知ってるんだよ!」


「さぁ、何ででしょう。」


「くそっ! そっちは俺のこと何でも分かっている風なのに、俺の方には情報が全くないじゃないか! 何か不公平だぞ!」

 俺は苛立ちを隠さず少女に突っかかるように言う。


「まぁ、仕方がないわね。年の功ってやつかしら?」


「何言ってんだ。そんなに年は変わらないだろう?」


「ふふふ……。」

 俺の言葉に少女は応えず、只含み笑いをしながら黙っている。なんだか楽しそうにしているのが逆にむかつく。


「そろそろ、時間だわね。」


「なに? そんな制限があるのか?」


「今回は挨拶がてらコンタクトしただけだからね。大丈夫よ。心配しなくてもまた逢えるわ。」


「別に心配なんかしてないけどな。」

 少しふて腐れながらそう答える俺。何か良いようにあしらわれている気がするな。


「そうそう。1つだけ忠告しておいてあげるわ。」


「何だよ。」


「あなた、優しすぎるわ。ううん、お人好しすぎるわね。自分の事をもっと大切にしなさい。もっとも、これも私が言う資格はないのだけれどね。」


「なんだよそれ。よくわかんないな。」


「いいのよ。兎に角、自分の事もっと大切にしなさいね。じゃあまたね。」

 そう言うと、霞が濃くなり彼女の姿がどんどん見えなくなっていった。


「おい!……」

 またかよ。好きなだけ喋っておいて、こっちの質問には碌に答えないでいなくなるなよ。


 それにしても、理解できないことが山積みだ。何処かひとりでゆっくりと考えたいよ本当。

 そんなことを考えていたら、ふと目の前の場面が切り替わる。


 そこは、元いた馬車の中だった。横にはシルビア、前にはサラもいる。2人を見るが特に変わった様子がない。


「わー! ヒデオ様、結構お似合いですよその耳飾り!」

 まるで、全く時間が経っていないかのようなシルビアの反応だ。


「ん? ヒデオ様どうしました?」


「なぁ、シルビア。変なこと聞くけどさ。俺ってさっき暫くボーッとしてたりしてなかったか?」


「今ぼうっとしてましたけど?」


「いや、そうじゃなくて……。耳飾りを着けた後、暫く動かなかったとか、意識が飛んでる様子だったとか、そういったことはなかったか?」


「別に、無かったと思いますけど……。ねえ、サラ様。」

 シルビアは不思議そうな顔で俺を見た後に、サラに同意を求めるように目をやる。


「あぁ、ヒデオが耳飾りを着けてから今までの間、特に変わったことはなかったぞ。というより、耳飾りを着けたのはつい今し方のことだろう?」

 サラも不思議そうに俺を見る。


 ってことはあれか? 俺が紫少女えっと名前は何だったっけ? 変な妄想してたから良く覚えてないぞ?


威能 飛鳥(いのう あすか)


 そうそう、その威能 飛鳥(いのう あすか)……って、今のは何だ? 空耳か?

 キョロキョロ周りを見るがサラとシルビア意外には気配を感じない。


「ヒデオ様どうされました? なんだか変ですよ?」

 シルビアが心配そうに覗き込む。


「やっぱり、その耳飾り何か変なんですか?」


「いや。そう言う訳じゃないんだ。ちょっと空耳が聞こえたようでさ。いや。大丈夫。気にしないで……。」


「なんか変な感じ……。何かあったら言ってくださいよ。」


「あぁ、分かったよ。大丈夫だから、心配ないよ。」


「ならいいんですけど……。」

 少し不満そうにしているが、シルビアは何とか納得してくれたようだ。


 それにしても、飛鳥といた時間は現実の世界では全く流れてないって事になるのか? 時の流れから外れる効果? まだ分からないな。これから暫く注意しながら、様子を見ていくしかないか……。



「ヒデオ様。起きてください。」


「ん? どうした?」

 目を開けると、俺の顔覗き込むシルビアの顔が目の前にあった。


「あぁ、寝てたのか。」

 俺は、考え事をしながらどうやれ寝落ちしてしまっていたようだ。外を見ると、もう既に周りは真っ暗になっている。


「どれくらい寝てたんだ?」


「かれこれ10刻くらいは寝てたと思いますよ。」


「そんなにか。」


「随分お疲れのようですね。」


「なんだかな。考えることがいっぱい有って、頭が疲れちゃったみたいだな。」


「ヒデオ様でもそんなことがあるんですね。」


「その辺は俺は普通の人とあまり変わらないと思うぞ。」


「それはないです。断言できます。ヒデオ様は特別ですよ。」


「そんなこと言ってくれるのはシルビアだけだよ。」


「そんなことはないぞ。私もお前のことは特別な存在だと思っているぞ。」


「なんか、サラに言われると違う意味に取りそうで怖いよ……。」

 俺の言葉の意味が分からないのか、サラはキョトンとした顔をしている。


「それで? 何かあったのか?」


「いや、一旦ここら辺で休憩するそうだ。流石に、皆疲労の色が見えるからな。」


「そうか。そりゃ5時間ぶっ通しだと流石に疲れるだろうな。しかし、休憩と言うことは野営はしないのか?」


「今回も、そのまま王都を目指すようだな。」


「人員は大丈夫なのか?」


「どうやら中間地点で次の隊が待っているらしい。そこで交代すると言っていたぞ。」


「なるほどな。それにしてもそこまでして急がないといけない理由って一体何なんだ? サラは何か聞いていないのか?」


「いやそれがだな、確かに私も帰る日程をしつこく念を押されていたことは覚えているのだが、どうして戻らないといけなかったのか忘れてしまったんだな……。面目ない。」

 そう言いながらサラは頭を掻く仕草をする。まぁ、サラだから仕方がないか。


「トモエとかに聞いたらどうなんだ?」


「先程、会話したときに聞いてみたんだが、教えてくれなかったんだ。」


「なんか不審な動きでもあるのかな。」


「そう言った類いのことでは無いとは思うけどな。奴らは、私を驚かせるのが好きだからこういうことは結構あるんだ。」


「良くそれで、団長が務まっているな。」


「団長と言っても何もしてないぞ。大体のことはトモエがしてくれているからな。」


「なんだよ。それじゃあ客寄せパンダじゃないか。」


「キャクヨセパン? それって何ですか?」

 シルビアが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「あぁ、シルビアには分からないか。」


「私も分からないぞ。」


「いやいやいや、サラは分かれよ。って、マジか?」


「パンダは分かるけどな。白黒のクマだろ?」


「間違っちゃいないけど、正解でもない気がするぞ……。」


「え−!? ヒデオ様の世界には白黒のクマがいるんですか?」


「ほら、シルビアに間違ったイメージ植え付けてるぞきっと。いるにはいるけどな。多分シルビアがイメージしている感じじゃ無いと思うぞ。」


「そうなんですか?」


「まぁ、いるって事で良いよ、面倒だから。」


「あ、何かその態度好きじゃないです。」

 そう言いながらシルビアが頬を膨らませて拗ねる。


「今度な、機会があったら教えるよ。今は勘弁な。」


「はぁーい。わ・か・り・ま・し・た。」

 この様子はまだ拗ねてるな。でも、つきあうのも面倒だから放置しておくことにしよう。


 そうこうしているうちに、馬車が止まった。どうやら休憩地に着いたようだ。


 俺は馬車から降りると両手を上に伸ばして背伸びをする。


「いやぁ、座ってるだけと言っても流石に疲れるな。」


「そりゃそうですよ。結構な長旅ですからね。」


「そう考えると、夜通し走り続けている彼らには頭が下がる思いだよ。何かしてあげられることはないかな。」


「ヒデオ様の甘い果実水でも振舞ってあげたらどうですか?」


「おぉ、それは良い考えだな。よし、じゃあ早速配って回るか。」

 そう言って、収納倉庫(アイテムボックス)からコップと果実水を取り出して、休憩中の兵士や御者たちに俺とシルビアで振舞って回った。収納倉庫(アイテムボックス)のおかげで冷たくて新鮮なままの果実水はとても好評で喜ばれた。これで少しでも元気になって貰えると嬉しいな。


 このまま走り続けると明日の夕刻までには王都に着くことができるそうだ。馬車の中での睡眠はちょっと大変だけど、頑張って走ってくれている人たちのことを考えるとそれも何とかできると思えてくる。


 この旅で感じるのは、1人よりも2人、そして、2人よりも大勢で協力する方が大きな成果を上げられるって事だな。そんなことを考えながら、俺は休憩している兵士たちと共に非常食を摂ったり会話をしたりしながら、楽しいひとときを過ごしたのだった。 

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