第78話 勇者の遺産 その2
「さて、これの詳細だが実は私たちも良く分かっておらん。」
公爵は、開口一番そう言った。
「分からないだと!」
サラが怒気を込めて言う。
「私たち? 私たちとは一体どういうことですか?」
俺は、サラを制止しつつ眉をひそめて言う。
「私と理念を共にする仲間。とだけ今は言っておこうか。」
「王国とは別の組織と言うことですか?」
「今はそのことについて話すつもりはない。」
公爵は強い口調で言い放つ。
「わかりました。」
こう言うときは、しつこく聞いても何も引き出せない物だ。俺は早々に諦めて本題に入る。
「で、このイヤリング……いや、耳飾りはどういった物なのですか?」
「うむ。それは、サラ殿が言うように300年前の召喚勇者が着けていたとされる耳飾りだ。」
「その勇者は、300年前に討ち滅ぼされたのではないのか? その耳飾りもその時に失われたと思っていたが?」
サラが興奮気味に言う。
「勇者の生死は不明だ。」
「どういうことですか?」
俺が公爵に聞く。
「最後に暴走した勇者を止めたのは事実だが、その際勇者の遺体を確認したわけではない。」
「そんな! それこそ、憶測の域を出ない話ではないか!」
「サラ。まぁ落ち着けよ。公爵様、300年前の勇者のことは俺には解りません。それよりも、今知りたいのは、その耳飾りがどういった物かと言うことです。」
「先程も言ったように、詳細は分かっていない。何故ならば、これは召喚勇者が身につけて初めて真価を発揮するモノと言われているからだ。つまり、私たちだけでは、調べるにも限界があるのだよ。」
「ということは、公爵閣下はヒデオを実験体としてお考えなのか!」
サラが立ち上がり興奮気味に言う。
「いいから、サラは座ってな。」
そう言いながら俺も公爵を見る。サラは、渋々ソファーに腰を落とす。
「そう取られても仕方がないことだとは思うが、我々だけではいかんともしがたいのだよ。」
「私が尋ねなければ、そのことは黙っているおつもりだったのですか?」
「そう言われると何も言えぬな。弁解の余地もない。しかし、今はこうしてきちんと話しをしておるだろう? 決して騙すつもりがあったわけではない。」
「そうですが……。」
ここまでの話を聞いただけでは、これは貰わない方が良いような気がしてきたぞ……。
俺がそう考えていたらソフィアから念話が届く。
《主様。その耳飾りは主様が持つべき物です。他の者の手に渡るくらいなら是非お持ちください。》
《ソフィアはこれを知っているのか?》
《それは、神々の力によって作られた物のひとつです。所持する者を間違うと大変なことになるやも知れません。主様。是非貴方がお持ちください。》
《そういわれてもなぁ……。》
《主が持っていて、特に危険なことは無いはずです。むしろ主が持っていないことの方が危険です。》
ソフィアにそう言われると、確かに召喚勇者が身につけるべき物を誰とも分からない者に手渡すのは良くないかも知れないな。公爵はこれを正当な所持者に返そうとしているだけだと考えると、案外真っ当なのかも知れない。無論信用しきるつもりはないけどな。
「公爵わかりました。この耳飾り有りがたく頂戴いたします。」
「おお、そうか。ヒデオ殿、感謝するぞ。」
公爵は身を乗り出して俺の両手を握ってきた。よほど嬉しかったんだな。
「ヒデオ! いいのか?」
サラが心配そうに聞く。
「サラ。心配ない。大丈夫だ。身を案じてくれてありがとうな。」
「ヒデオが良いのなら私は何も言うことはないのだが……。」
サラはちょっと複雑な表情だ。王国で自分の知らない組織が動いていることが分かったわけだしな。その、組織の思惑に乗せられただけかも知れない状況が納得いかないのだろう。
「公爵様。これはもう私の物と言うことでよろしいでしょうか。」
「あぁ、勿論だとも。好きに使ってくれたまえ。」
「ありがとうございます。」
俺は改めて、箱の中を確認する。本当にシルビアに買った髪飾りとよく似た素材だ。しかし、このイヤリングの石の方が色に深みがある気がするな。そんなことを考えながら、俺は顔を上げる。
「さて、外の人たちをいつまでも待たせておく訳にはいかないしな。そろそろ出立しようか。」
俺はそう言いながら席を立つ。シルビアもサラも俺に続いて席を立つ。
「ヒデオ殿。これからも何かと世話になることもあるやも知れぬ。その時はよろしく頼むぞ。」
そう言って右手を公爵が差し出す。
「こちらこそ。何かあればよろしくお願いいたします。」
俺は、公爵がさしだした手をしっかり握り、握手を交わした。
☆
公爵邸から外に出ると、既に出立の準備は完了していた。陽は既に山の端にかかろうとしている。本来なら夜の移動は避けるべきなのだろうが、何やら急がなければならない理由という物があるようだ。その分、多めの護衛が付けられている。
俺たちは、公爵始め公爵邸の人たちに見送られながら馬車に乗る。
馬車の扉を護衛の兵士が閉じようとした時に公爵が近づいてきた。俺は、兵士に扉を閉めるのを待つように手で合図する。
「ヒデオ殿。今のこの国は、様々な思惑が絡んでいる。色々な立場の者が貴殿を利用しようとするかもしれん。その際は、何が自分にとっての正義であるかを優先して考えたまえ。」
「分かりました。お心遣い有りがたく頂戴いたします。公爵もお気を付けて。」
「うむ。」
そう一言言うと、公爵は護衛兵に目で合図する。馬車の扉が閉じられると程なくして馬車は進み始めた。
「ふー。」
俺は、馬車の座席にもたれかかると大きく息を吐いた。
「なんだか。いろんな情報が一度に入ってきて整理し切れていないって感じだな。」
そう独り呟きながら、収納倉庫から先程公爵に貰った箱を取り出す。
「ヒデオ。本当に受け取ってもよかったのか?」
サラが少し心配そうに言う。
「考え無しで貰ったわけじゃないから大丈夫だよ。」
「ヒデオ様。その耳飾り付けてみてくださいよ。」
相変わらずのシルビア発言だ。俺はイヤリングを手に取ってみる。イヤリングと言っても1つだけで片耳に着ける物だろう。
ぱっと見ただけでは只の綺麗なイヤリングなんだけどな。これに一体どんな力があるんだろう?
そう考えながら、俺はイヤリングを左の耳につけてみた。
暫く待ってみたが、特に変わったことが起こる感じもない。なんだ、結局何か分からずじまいか。そう思いながら顔を上げてると、そこは馬車の中ではなかった。
俺は、いつの間にか霞がかった白い空間にいた。この空間には覚えがある。以前魔力切れで意識が飛んだときに見た夢の中の空間と同じだ。いや、きっとあれも夢ではなかったに違いない。と言うことは……。
「また逢えたね。」
声に振り返ると、そこにはあの紫色のロングヘヤーの少女が立っていた。今度は顔がよく見える。あどけないがどことなく寂しげな憂いのある表情をしている。やっぱり可愛い娘だったな。
「お前は一体誰だ?」
「さぁ、誰でしょうね。ふふふ。」
悪戯っ子のような笑顔をしながらそう応える少女。
「その耳飾り良く似合ってるわよ。」
彼女は俺の耳を見ながらそう言う。
俺は手で耳のイヤリングを触って確認してみる。しっかり耳にはイヤリングがされている。
「もしかして、これを着けたからここに来たのか?」
「それだけじゃないけど、それのおかげでここにアクセスしやすくなったのは確かね。」
「ここ? ここは一体どこなんだ? 君は誰だ? 何でここにいるんだ?」
「そんな一遍に聞かれても困るわ。それよりも、貴方は何故戦うのか答えは出たの?」
「質問に質問返しかよ。まあ良いよ。まだ絶対これって思えているわけではないけどな。一応の答えはあるぞ。」
「あら、どんな答えかしら? 教えて貰ってもいい?」
「良いけど、答えたらお前も俺の質問に答えろよ。」
「良いわよ。でもひとつだけよ。」
「意外とせこいな。まぁいいや。」
そう言いながら、俺は少女をまっすぐ見ながら言う。
「俺が戦う理由は、大切なモノを守るためだ。」
「ふうん。」
「ふうんって、お前な。これでも色々考えたんだぞ。」
「まぁ、悪くない答えだわね。貴方らしいと言えば貴方らしい。」
「なんだそれ? お前、俺のこと知っているのか?」
「ふふふ、内緒。」
「なんだよ。俺はちゃんと答えたぞ。お前も答えろよ。」
「それが貴方の質問って事で良いのかしら?」
「うっ……。本当にひとつしか答えないつもりか?」
「そう言ったでしょ?」
「くそっ。」
本当にひとつの質問にしか答えるつもりがなさそうだな。そうなると、聞くことはひとつしかない。
「じゃあ聞くけど、お前は誰だ? 何者なんだ?」
「質問が2つになってるわよ。」
「うっ……。これくらいいいだろう!」
「しょうが無いわね。いいわ。教えてあげる。」
上目遣いでそう言う彼女の表情は何とも言えない色っぽさがあった。よく見ると少し小柄だけど、好みのスタイルをしている。胸の大きさはほどよく、短めのスカートから覗く脚は俺好みの細すぎず太すぎずのナイスなバランスだ。脚フェチの俺にはたまらない……。いやいや、こんな時に何考えてるんだ俺。
「私の名前は威能 飛鳥。召喚勇者よ。」
「へっ?」
いかん。変な妄想をしてたからなんか言葉が頭に入ってこなかったぞ。今なんて言った?
たしか……召喚勇者って……。
「なに! 召喚勇者!?」
「そうよ。私は召喚勇者の威能 飛鳥。どうぞよろしくね。タダノ ヒデオ君。」
そう言うと、あっけにとられ茫然自失な俺に対して、彼女は笑顔で右手を差し出し握手を求めたのだった。




