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第74話 王からの召喚

「ちょっ、ちょっと待て! ブルーノ!」

 そう叫びながら、今度は小柄な女騎士が入ってきた。


「トモエ。やはりお前もいたか。」

 どうやら彼らはサラの知り合いのようだ。サラは、小柄な女騎士に話し続ける。


「で、トモエ。これは一体何の騒ぎだ?」


「はっ! 失礼いたしました。サラ様がこちらにいらっしゃるとの情報を得ましたので、伺った次第です。」


「何の用だ?」


「王城よりのご連絡をお伝えに参りました。」

 サラはため息をつきながら、床に倒れた男を見ながらトモエに言う。


「こいつは?」


「来るなと言ったのですが、クルース様には自分が必要だと言って勝手についてきました。申し訳ありません。」


「まぁよい。で? 陛下は何と?」


「はい。サラ・クルース様、並びにタダノ・ヒデオ様両名は、直ちに王城へ赴くようにとのことです。」


「はい? 俺もか?」

 俺が素っ頓狂な声を上げると、トモエは俺の方を一瞥するが直ぐにサラの方へ向き直る。


「そのつもりで移動していたのだがな。この街をゴブリンの大群が襲ってきたので、少し手間取っていたのだ。」


「存じております。この件につきましても、陛下は興味をお持ちのご様子でした。特に……。」

 そう言いながら、再びトモエが俺を一瞥する。


「なるほど。」

 サラは腕組みしながら思案顔で考え込んでいるようだ。

 それにしても、昨日の夜のことがもう王城に伝わっているのか。しかも使者が来るなんて、どれだけ早い情報手段があるんだ?


「クルース様、ヒデオ様。表に馬車をご用意しております。私たちとご同行願えませんでしょうか?」

 改めて、トモエがサラに言う。


「元々、私たちは王都を目指していたのだから私は良いが……どうする? ヒデオ。」

 サラが俺の方を見ながら聞いてくる。


「俺も別に良いぞ。この体たらくだし、馬で移動するのも辛いだろうからな。」


「あの……私はどうすればよろしいですか?」

 おずおずとシルビアが尋ねる。

 そうだな、トモエは俺とサラの2人に来いと言ってたもんな、そこにシルビアは数えられてはいないだろうし。


「あなたも一緒に来ると良い。陛下もご承知のことだ。」

 そうトモエが言う。意外にもシルビアも同行して良いそうだ。しかし、陛下もご承知ってホントどんな情報網なんだろう。気になるな。

 それにしてもシルビアは、ホッとした表情をしている。一緒に行けて良かったよ。


「俺たちにも馬がいるんだが。」


「それは私たちの方で、何とかしよう。」


「わかった。それではお願いすることにしよう。」

 ソフィアには後で事情を言っとかないとな。


《主様。事情は分かりました。私のことは気になさらないでください。》

 後で伝えようかと思っていたが、ソフィアからの念話が届いた。確か、厩はここから2,30mは離れていたと思うんだけど……。この念話ってのはどの当たりまで届くんだろう。


「では、私どもは外でお待ちしております。ご準備が整いましたらおいでください。」

 そう言いながら、トモエは部屋から出て行こうとする。


「おい。こいつはどうするんだ?」

 俺は、未だ床に寝そべっている男を指さして言う。


「行くぞ。ブルーノ。」

 トモエがそう言うと、ブルーノはむくっと起き上がり、埃を払うように服をはたいて身なりを整える。


「クルース様! また後ほどです!」

 そう言い会釈すると、トモエの後ろについて部屋を出て行った。

 なんだか、めんどくさいヤツが増えた気がするな……。

 こうして俺たちは、王城から用意された馬車に乗って王都を目指すことになった。


 旅支度を済ませて外に出てみると、なかなか立派な馬車が待っていた。


「ヒデオ様! 見てください。馬車ですよ! しかもすっごい豪華な!」

 馬車を見てシルビアは喜びに堪えられない様子だ。年頃の女の子ってこんな感じなのかな。


「そうだな。これで、少し楽に旅ができそうだな。時間はかかりそうだけど……。」


 4人乗りの豪奢な馬車の他に、トモエとブルーノそして、2人の護衛らしき兵が馬に乗っている。

 俺たちは、馬車に乗り込んだ。


「サラ。馬車だとここから王都までどれくらいかかるのだ?」


「そうだな。途中アゴラと言う街があるのだが、そこまで大体2日くらい、そこから王都まで更に2日はかかるな。」


「そんなにかかるのか。」

 俺は驚きの声を上げる。思ったよりかかるんだな。


「それでもまだ早い方だぞ。この馬車は王族が使う高速馬車だからな。馬も速い馬をつけているはずだ。」


「そういや俺たちの馬はどうしてんだろ?」

 そう思って、馬車から外を窺ってみると、先程の護衛兵が俺たちの馬をそれぞれ引いていくようだ。


《ソフィア済まないが暫く我慢してくれ。》


《大丈夫です。主様。お気遣いありがとうございます。》


 念話でソフィアに話しかけてみたが、ソフィアも問題なさそうだ。


 暫くすると、トモエの合図で馬車は走り始めた。


 馬車の車窓からは、景色が流れるように過ぎていくのが見える。意外と速いな。サラが言う高速馬車ってのもまんざらじゃなさそうだ。

 それにしても、随分と楽だ。なにより移動しながらでもゆっくりと考え事ができるのがいい。勿論馬に乗りながらでも考えられるが、なにかとやらなければならないこともあるしな。それでも俺の場合はソフィアに任せてれば良いから随分と楽なのではあるが……。


「サラ。」

 ふと思いついたことがあったので、俺はサラに声をかけてみる。


「なんだ。」


「ここから2日かかるって事は、今夜は野営か?」


「そうなるだろうな。」


「それにしては、荷物が少なすぎはしないか?」


「この馬車を持ち出してきたんだ。野営の準備も王族の物を持ってきているのではないかな。」


「王族の物?」


「あぁ、王であってもずっと城にいるわけでもないだろう? 移動には野営をしなければならない時もあるからな。そんな時のためのアイテムがいくつかあるんだ。」


「そうなのか。それはなんだか楽しみだな。」

 確かに、王であろうと野営が必要なときくらいあるもんな。王族用の野営アイテムか。なんだか、ワクワクしてきたぞ。


「ヒデオ様。私もついて来ちゃいましたけど大丈夫でしょうか?」

 シルビアが心配そうに俺に聞く。


「大丈夫じゃないの? 王もシルビアのことは知ってるって言ってたみたいだし。それに、シルビアはソリスの里長の娘だろ? いわばソリスの里のお姫様ってことだもんな。それ相応の対応してくれるんじゃないかな。」


「お姫様だなんて……。私そんなこと思ったことないです。」

 少し恥ずかしそうに俯きながら、シルビアがもじもじしている。


「確かに貴賓クラスとまではいかないが、ヒデオの言う通りお前はソリスの姫だ。それ相応の対応はして貰えると思うぞ。そうだな、これからは名乗るときにはソリスの姫シルビアと名乗るが良いぞ。その方が箔が付く。」


「え~? そんなの無理ですよぉ。何か恥ずかしいし……。」


「都会になると……特に、王都では格式を重んじることが多い。ソリスの姫を名乗れば、ただの田舎娘ではなくなるからな。その方が都合が良いこともあるんだ。」


「だってさ、姫様♡」

 俺が、少しからかうようにそう言うと、シルビアは顔を真っ赤にして頬を膨らませた。


「もう! ヒデオ様ったら、いたずらが過ぎます!」

 拗ねた表情をしながら、シルビアがそっぽを向く。


 そんな会話をしながらも、馬車は着々と王都に向けて走っていく。

 それにしても、昨日の夜はあれだけの戦いをしたというのに、サラもあっけらかんとしたものだな。


 戦いと言えば、あれは夢だったんだろうか。俺は、寝ている間に見た夢のことを思い出す。しかし、どうしても夢には感じられないんだよな。あの少女のことも気になるし……。


 戦う理由か……。

 そう言われれば、俺には戦うだけの明確な理由がないよな。勇者として異世界(このせかい)に召喚されたから、勝手に戦うイメージでいたけど、それは俺の単なる思い込みだもんな。アストレアにも戦えって言われてないし。


 アガルテで公爵に戦場に行けと言われたのが最初だったな。その時は、俺も戦ってみたいと想ったっけ。勇者としての力を知りたいって気持ちが大きかったような気がするな。それから、ゴブリン退治。

 旅の途中での戦いは自分たちを守るためだからいいとして、昨日の夜の戦い。


 そうだな。これらの戦いは、全部人を守るために戦っているんだ。村や街を守るために……。でも、それって俺がしないといけないことかな。


「わかんねぇな。」


「ん? どうした。」

 俺がつい放った一言にサラが反応したが、俺は手を振り何でもないと合図した。


「見てください。ひろ〜い!」

 外を見ていたシルビアが声を上げる。


 つられて俺も外を見てみると、いつの間にか森を抜け、そこには草原が広がっていた。


「広いな。なんだか壮観だな。」

 考えてみれば異世界(こちら)に来てから、こんなに広い場所を見るのは初めてだ。

 どうやらシルビアも、こんな広い草原は見たことがないようだ。目をキラキラさせながら、食い入るように外の景色を見ている。


 西の方を見れば、遠くに山が見える。その向こうの空は茜色に染まりつつある。今日の野営は草原だな。そう考えていたら、併走していたトモエが馬車に近づいてきた。


「サラ様。この先に、野営の準備をしています。今日はそこで夜を過ごすことになります。」


「あぁ、わかった。よろしく頼む。」

 サラがそう応えると、トモエは馬の足を速めて先行するように駆けていった。


 色々考えすぎるのもよくないかもな。兎に角今は、この旅を少しでも楽しむことを考えよう。


 俺は馬車に揺られながら、そう考えるのであった。

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