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第69話 クルセの街

 翌日、俺たちはクルセの街の入り口にいた。朝からひたすら馬を走らせた結果、何とか日が沈む前にクルセの街に着くことができた。

 街は防御壁に守られている。街の中に入るための門の前には、キャラバン隊や旅人たちが数組待っていた。俺たちは、馬から下りてその列の最後尾に並ぶ。


「意外と人がいるんだな。街道では人とあまり会わなかったから意外だな。」


「こんなのは少ない方だぞヒデオ。王都に入るにはかなりの順番を待たないとダメだからな。」


「そうなのか!」

 アガルテに入るときはマールスと一緒だったから、こういった入場の手続きは全くしなかったんだよな。


 暫くすると、俺たちの順番が回ってきた。

 門には門番が2人と、役人が1人立っている。門の横には詰め所があり、そこにも数人の兵士らしき人たちがいた。


「身分証を。入市料はひとり銀貨1枚だ。」

 ぶっきらぼうに役人が言う。もう少し丁寧に対応してもいいのにな。それにしても入市料に銀貨1枚は高くないか? そう思いながら首から提げた身分証を見せようと手に取ると、


「なに! 金を取るのか? 私は今まで払ったことなど一度も無いぞ!」

 役人に向かってサラが喚き散らす。流石は残念美少女サラだ。

 サラに目をやった役人は、訝しげに眺めながら仕方なさそうに説明をする。


「そんなことはない。どなたにも入市料は貰っている。支払わなくても良いのは、軍務や公務に携わっている方々のみだ。」


「なに。そうだったのか。」

 いやいや。サラさん、貴方聖騎士なんだから軍関係者でしょ?


「こちらの方は、アクアの聖騎士なんですけどダメですかね。」

 ダメ元で、俺が役人に聞いてみる。

 暫し呆然とサラを眺めていた役人だが、何かに気がついたのか驚きの表情を見せる。


「その紋章はブラウ・ローゼ! これは大変失礼いたしました。どうぞお通りください。」

 役人は急に態度が変わり、遜った物言いで対応し始めた。なんだ、やっぱりサラはタダで通れるんじゃないか。そう、思いながら俺は手にしていた身分証を見せようとすると


「それでは、この2人も通って良いな。」

 サラは、当然のような顔をして役人にそう言う。


「そ、それは……。」

 役人が何か言おうとしたのだが……


「なに! だめなのか?!」

 サラが大声で喚くと、役人はおずおずと一歩、二歩と後ろに下がった。


「わかりました。どうぞお通りください。」

 サラの迫力に気圧された役人は、不承不承そう言って俺たちも通してくれた。たぶん、関わると面倒だと思ったんだろうな。その判断は正しいと思うぞ。


「別に身分証を見せても問題ないのに。」

 門をくぐって、門前広場に出たところで俺はサラにそう言った。


「いいではないか。銀貨3枚得をしたろう?」


「なんだ? サラ。確信犯か?」


「いちいち役人にあれこれ言われるのは好きじゃないんだ。それに、私が今まで払ったことがないのは事実だ。」


「そうはいっても、あちらさんもそれが仕事だからな。」

 俺は、そうは言ったがサラ相手に言っても詮無いことであると思い、これ以上のことを突っ込むのはやめた。


 それにしても、そんなに大きな街ではないと聞いていたが、その割には人が多いな。門に並んでいた人の数からするともう少し寂しい街かと思っていたのだが、意外と賑わっている。


「もうちょっと小さな街だと思っていたのだが、意外と賑わっているな。」

 話題を変えるべく、そうサラに話しかけてみる。


「王都に行くにも皇国に行くにも、ここを通らないと行けないからな。」


「皇国?」


「神聖レジストレ皇国だ。」


「神聖レジストレ皇国って?」

 初めて聞く国の名前だ。名前から想像するに、何か宗教の絡んだ国なんだろうけど……。


「あぁ、聖教会の総本山がある皇国だ。」

 

「聖教会? それは、普通の教会とは違うのか?」


「あぁ、この国には、パラス教会と聖教会の2つの教会があるんだ。」


「パラス教会なら知ってるぞ。アガルテでこのプレートを発行して貰った。」

 俺は首にかけている青色のプレートを手に取りながらサラに言う。


「そうだな。我々勇者はどちらかというとパラス教会との縁が深い。パラス教会は大きな街には必ずあるしな。歴史もこちらの方が古い。いつからあるのか分からないくらいだ。」


「じゃあ、その聖教会っていうのは、祀っている神が違うのか?」


「いや。それは同じだ。どちらの教会もパレス神を信仰している。聖教会は、300年前に起源をもつ比較的新しい教会だ。」

 サラが言うには、300年前、魔王を名乗る勇者を封印することに成功した勢力が後に聖教会を名乗り、神聖レジスト皇国をつくったらしい。歴史は300年と浅い国だが、その勢力は急速に大きくなり、今では各国に大きな影響力を持つまでに成長しているとのことだ。


 アストレアはそんなこと一言も言ってなかったな。


《ソフィア? 神聖レジストレ皇国ってどうなんだ?》

 俺は念話でソフィアに聞いてみる。


《神の名を借りて、教会を名乗る不届き者の集団ですよ。私は好きではありません。》


《そうなのか……穏やかじゃないな。どこが気に入らないんだ?》


《彼らは神を信仰しているわけではないようで。人心を掴むために神を利用しているだけの者たちです。》


《なんだかあまり関わりたくない感じの集団だな。》


《今のところは関わらないことをお勧め致します。》


《わかった。()()()()()()って言う言い回しは気になるが、取りあえず気をつけておくよ。》


「今日は宿屋に泊まるんですよね。」

 シルビアは、通常運転でにこやかに尋ねてくる。まぁ、そこがシルビアの良いところなんだけどね。


「そうだな。サラ、何処かお薦めの宿屋はないのか?」


「この街でわざわざ宿屋に泊まることがないから分からないな。」

 一番当てにしていたサラは全く役に立ちそうにない。


「ねぇ。あなたたち旅の人?」

 門前広場で立ち話をしていた俺たちに、そう声をかけてきたのは年の頃は14、5才といった感じの女の子だった。シルビアと同じくらいかな? ただ、シルビアと違ってかなりのボリュームの物をお持ちではある。


「あぁ、そうだ。私たちは王都を目指して旅をしている。」

 個人情報をいとも簡単にサラが暴露する。ここに入るときは、半分脅して身分証明書を見せなかったのに規準がイマイチわかんないな……。


「やっぱりぃ! そうだと思ったのよ。ねぇ。もし未だ宿を決めていなかったらウチにいらっしゃいよ。そこの店なんだけど、ご飯も美味しいし清潔なベットもあるわよ。」

 そう言いながら、少女は俺の腕を両手で掴んで胸元に引き寄せる。俺の肘はふくよかな谷間に埋もれて、幸せな状態だ。


「あ〜! 何腕組んでるんですか! ヒデオ様ダメですよ!」

 対抗意識を刺激されたのか、シルビアに睨まれる。何で俺が叱られないといけないんだ?


「まあまあ、そう警戒しなくても良いから。後悔はさせないから!」

 そう言いながら、少女は俺の腕をとりお構いなしにどんどん進んでとある店の前まで来た。

 少女はその店の中に入って行く。


「マスター。お客さん連れてきたよ。」


「おう、イリス。お前また強引に引っぱってきたんじゃないだろうな。」

 マスターそれご名答ですよ。この()はいつも強引な客引きしてるんだろうな。


「ヒデオ様。別にここじゃなくてもいいんじゃないですか?」

 対抗意識からかシルビアはどうもここに泊まることを良しとしていないみたいだ。


「シルビア。それじゃあ他に良い宿を捜してきてくれるか?」

 俺はちょっと突き放すような口調でシルビアに言う。


「いやぁ。それはちょっと……面倒ですね。」


「だろ? だったらもうここで良いじゃないか。見た感じもなんだか良さそうな雰囲気だし。」


「ここは、私も利用したことがあるぞ。食事だけだがな。」

 サラが、何故かどや顔で会話に混ざる。


「お。そうなのか? で? どうだった?」


「う〜ん。忘れた……。」

 やっぱりサラだな。


 シルビアは未だ少し渋っていたが、結局俺たちはこの宿を利用することにした。これから別の宿を捜すのも大変だし、何となく雰囲気も悪くなかったからだ。取りあえず、まず食事を取ることにした。


「ねぇ。お薦めの料理は何だい?」

 俺は、客引きをしていた女の子に聞いてみた。


「そうね。今日はルナク市場から新鮮な魚が入ってきたから、魚料理なんてどう?」


「お〜! 魚料理があるのか! いいね。俺それにするわ。で、どんな魚?」

 って、聞いてもわかんないだろうなきっと。


「とりあえずお薦めの魚料理持ってきて。で、2人はどうする?」

 未だに何にするか決めかねているシルビアとサラにも聞いてみる。すると、女の子が


「お薦めは、パカホの丸焼きかしら。でも、結構量があるから1人じゃ無理よ。」


「そうか。なら私もそれにしよう」


「じゃあ、私も!」

 結局、3人でそのパカホの丸焼きを頼むことにした。

 俺は、エールを、サラとシルビアは果実水を飲みながらまっていると、大皿に載ったパカホ? の丸焼きが出てきた。


「なんだこりゃ! めっちゃでかいな。」

 50cmはあろうかという大皿には、そこからはみ出すほどの大きな魚の丸焼きがのっていた。1m位はあるんじゃないのか?


「中つ海でとれたパカホよ。これでも小さい方なんだから。どうぞ、召し上がってくださいな。」

 女の子に、そう促されて俺たちはそのパカホを食べてみる。


「うまいな!」

「うん。うまい。」

「おいしいです。」


 3人は口々にその魚の味を賞賛した。丸焼きだが香草を練り込んでおり、レモンのような酸味の利いた果物の汁をかけているようだ。香りとその酸味のバランスが実に絶妙だ。身もほくほくしていてあっさりしている。ちょっと歯ごたえがあるけど、かえってその弾力感がたまらない。ちょっと大味な鯛って感じだな。


「これは、おいしいよ。当たりだね。」

 シルビアとサラを見やると、2人とも満足そうにパカホを食べていた。強引に連れてこられた宿だったけど、なかなか良い店に当たったな。久しぶりに魚も食べることができたし。美味しい物を食べると元気になれるから良いな。


 気がつけばもう外は暗くなっていた。夜も更け始めたクルセの街で、俺たちは美味しい食事を楽しみながら過ごしたのだった。

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