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第68話 食べ物は大事

 俺たちは、一先ず街道に戻ってクルセの街を目指す。魔物が出ても、先程の感じなら楽勝で処理できるだろうが、万が一のことを考えての行動だ。シルビアもいるしね。ここは、比較的まっすぐなので距離的にもロスはない。


「サラ、今日中に着けるかな。」


「どうだろう。微妙なところだな。」


「シルビアもいるし、無理しないで今日も野営かな。」


「そうだな。それがいいだろう。ヒデオ。そこの広場で一先ず休まないか?」


「そうだな。ちょっとバタバタしたしな。一息つこうか。」

 俺たちは、街道横にある広場に馬を繫いで休憩を取ることにした。街道には、一定の距離ごとにこういった広場が設けられている。建物とかの施設は何もないが、休憩したり野営をしたりしやすくなっているのだ。高速道路のPA(パーキングエリア)みたいなもんだな。


 俺は、『収納倉庫(アイテムボックス)』から、果実水を取り出し2人に振る舞う。いつも冷たい飲み物が飲めるのはとても便利だ。『収納倉庫(アイテムボックス)』様々だな。


「そう言えば、サラ。さっき、オークがどうとか言ってたけど?」


「あぁ、そうだな。この辺に魔物が出ることはそう珍しくはないことなんだが、ゴブリン9匹にオーク3匹は、一度に出るにしては数が多いと思ってな。」


「そんなに魔物はいない森なのか?」


「いや。ディアボロスの森は魔物が多い森だ。だが、ほとんどは森の奥にいるし、この辺りにいたとしても2,3匹程度で動いている事がほとんどだ。9匹はちょっと多い気がする。群れで動いているとすると、何処かにそれを纏めている大物がいるやもしれん。しかも、オークが3匹いたのも気になるところだ。」


「そうなのか。何か心当たりはあるか?」


「ヒデオも出陣した会戦の残党が、この森に潜伏していた可能性はあるな。」


「そういったことはよくあることなのか?」


「そもそも、この森にいる魔物のほとんどは、もともと魔族の国から来た奴らだからな。」


「そうか。気にはなるけど今のところ実害もないし、暫く様子見ってことにしとかないか?」


「わかった。私も先も急ぎたいしな。その意見に賛成する。」

 俺とサラがそんな会話をしていると、森の方に気配がした。


 ガサガサッ……


 サラが剣に手をかける。俺は、近くにあった石を拾うと、音がした方に手首のスナップを利かせて投げつける。


「キィーー」

 茂みの中から鳴き声と共に、何かが倒れる音がした。サラが、茂みの方へ走っていき確認する。


「魔物か?」

 俺は、サラに声をかける。


 すると、茂みの中から1頭のシカを抱えてサラが戻ってきた。

「シカだったみたいだな。」


「凄いです! 流石ヒデオ様です。」


「シカだったか。ちょっとかわいそうなことしちゃったかな。」


「そんなことはない。大切な食材だぞ。」

 サラの言葉に、なるほどと納得する。


「でも、このシカどうしますか? このままだと、食材にはならないと思いますよ。」

 シルビアに言われて、再びなるほどなと納得する。


「あ……、そうだな。捌かないとだな。シルビアはできるのか?」


「お父様がしてるのを見たことはありますが、実際にやったことはありません。」


「そうか……。サラは……できないだろうな。」


「なに? 私を誰だと思っているんだ。」


「お!? できるのか?」


「できん。見たこともない。」


「やっぱりか……。」


「戦士だから仕方がないではないか。」

 少し拗ねたように頬を膨らませながら、拗ねたようにサラが言う。そう言う表情もできるんだな。それだけ見ると、可憐美少女なんだけどな。


 折角シカが狩れたものの、誰も捌くことができないなんてな。ま、狩れたのはただの偶然なんだけど……。

 でも、『収納倉庫(アイテムボックス)』に入れとけば現状は維持されるから街に行ったら捌いて貰おうかな。


「あの。ヒデオ様。私やってみても良いですか?」


「ん? できそうなのか?」


「はい。やったことはないですけど、お父様のを見ていたので何となくできる気がします。」


「そうか。じゃぁ、俺も手伝うから一緒に捌いてみようか。」


「はい!」


《主様。賢者の石に聞けばよろしいのではないかと》

 おぉ、そうだな。その手があったか。分からないところは賢者の石に頼ることにして、俺とシルビアはシカの解体にかかる。なんでもまずはチャレンジしてみないとな。


「で、シルビア。まずはどうしたら良いんだ?」


「えっと、まず、シカを木につるして血抜きをします。」


「よし。わかった。」

 俺は『収納倉庫(アイテムボックス)』から、ロープを出してシカの足に結ぶと木に吊す。そして、できるだけ傷を付けないように血管だけを切って血を流す。賢者の石効果だろう、何となくこうすれば良いって言うのが分かる。相変わらず、賢者の石とは意思疎通はできないけど……。


「次はどうするんだ?」


「血が抜けるまで、暫く待ちます。」


 俺は『収納倉庫(アイテムボックス)』から温かい麦湯を出してシルビアとサラに渡す。暫く時間がかかりそうなので、一息つく。それにしても、動物の血抜きは初体験だけど何とかなるもんだな。もっと、嫌な感じがするかとも思っていたのだが。会戦の時に比べると随分平気になってきた気がする。なんかのスキルの効果なのかもしれないな。


「ヒデオ様。この後、水で洗浄するんですが水魔法は使えますか? オルトゥス様から水属性を与えて貰いましたよね。」


 そういやそうだな。水魔法ってどんなのがあるんだろう。そもそも、ドライの魔法も概念で言うと水蒸気を扱ってるしな。


「やってみるか。どんな魔法が良いと思う?」


「ウォーターショットなんかがいいんじゃないですかね。」


「ウォーターショットか。何となくイメージできる魔法だな。水のかたまりが飛ぶ感じか?」


「そうです。流石ヒデオ様!」


 俺は、空気中の水蒸気と魔素を集めるイメージをする。なんとなく集まってきた感じがする。


「そろそろ大丈夫かな。ウォーターショット!」

 何となく、技の名を言ってみる。すると、手のひらの辺りから水の玉が生じたと思うと、シカに向かってその水弾が勢いよく飛び出す。


「すごい! 流石ヒデオ様。直ぐに使えるようになりますね。」

 シルビアが相変わらずキラキラした目で見てくる。ちょっと照れるな。ファイヤーボールに続いて、ウォーターショットも身につけられたようだ。

 

 洗浄をした後、腹を割いて内臓を取り出し、皮を剥ぐ。


「お父様は、肉を切り分ける前に魔法でしばらく冷やしてましたけど。」

 俺は賢者の石に尋ねてみる。……そうか、死後硬直で肉が固くなるのを防ぐためなのか。それなら、この間やったドライの手順で何とかなるだろう。相変わらず、賢者の石からの返答は言葉ではなく頭の中に顕れるボヤッとしたイメージだ。


「条件を満たした為

 スキル『虚空記憶』が Lv.2になりました。」


「よし。それは俺ができそうだから任して。」


 そう言うと、俺はシカ肉の周りの空気を抜くイメージをする。すると真空状態になったと共に温度が下がる。


「これで良いかな。」

 背中の肉を一部切り取る。いわゆるサーロインと呼ばれる部分だ。それから、肉を部位ごとに切り分けて布に包んで『収納倉庫(アイテムボックス)』にしまう。肉をしまいながら、ふと肉の旨味を増すには熟成が必要だと言うことに思い至る。でも、『収納倉庫(アイテムボックス)』だと時間が止まるから肉の熟成は進まないな。そう思って収納袋を取り出してそちらに入れ直す。


 マールスから譲って貰った収納袋は『収納倉庫(アイテムボックス)』と違って時間は止まらない仕様だ。これで肉も良い感じに熟成してくれることだろう。


 でも、どうしようか。収納袋を『収納倉庫(アイテムボックス)』に入れると収納袋ごと時間が止まりそうだよな。


 俺はそばにあった枝を拾って、ファイヤーで火を付ける。すかさずそれを収納袋に入れて、更に『収納倉庫(アイテムボックス)』の中に入れてみる。

 暫く経ってから収納袋を取り出して小枝を出してみる。すると、枝は燃えて炭になっていた。

 なるほど、『収納倉庫(アイテムボックス)』の中に入れても、収納袋の中の時間は進むんだな。


 これで、『収納倉庫(アイテムボックス)』の中でも、収納袋内の時間が流れることがわかった。これだと、中に入れている肉も熟成されて、美味しく頂くことができそうだ。


 ここで、俺は『収納倉庫(アイテムボックス)』にオークの死体を入れていたことを思いだす。


「そういや、こんなのもあるんだけど。」

 そういいながら『収納倉庫(アイテムボックス)』からオークの死体を1体出す。


「うわ! ヒデオ様いきなり何出すんですか! ビックリするじゃないですか!」


「ごめんごめん。いや、さっき()ったオークを入れてたのを思いだしたからさ。ついでにこれも何とかしたいなと思って……。」


「それは、浄化しないと食べられないぞ。」

 サラにそう言われてシルビアに教えて貰ったことを思い出す。


「そういや、ピューリフィケーションだっけ?」


「プリフィケーションです。」


「そうそれ。サラって聖騎士なんだろ? ピューリフィケーションできないの?」


「プリフィケーションです。サラさんできるんですか?」


「私は聖騎士だが戦士だからな。浄化魔法は使えない。」

 サラは残念そうに言う。


「そうなのか。じゃあ、これ持ってても仕方がないかな。いっそのこと燃やしとこうか?」

 そう言って、オークに向かってファイヤーをかけようとしていると


「街に行けば処理をして貰えるから、そのまま持っていても良いぞ。売ってもいいしな。」


「買って貰えるのか?」


「あぁ、そこそこの値が付くと思うぞ。」


「そっか、それは良かった。お金はいくらあっても困らないもんな。」

 そう言いながら、オークを『収納倉庫(アイテムボックス)』に戻す。

 シカ肉の処理も上手くいったし、休憩も取れたし。そろそろ、出発した方が良さそうだな。


「さぁ、ちょっとゆっくりしすぎた。もうひとっ走りしようか。」

 

「はい!」

 シルビアが元気に返事する。シルビアの元気に色々助けられてる気がするな。


 こうして俺たちは、休憩を終えると馬に乗り、再び街道をクルセの街に向かって進み始めた。

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