第6話 魔物とご対面
GYAOOOOOOOOOOOOON!!!!
地球とそっくりな風景の中にあって、地球では聞かない声。
イヤあれは咆哮だな。
俺は、岩陰に隠れながらもその咆哮の主を捜す。咆哮は上からだったな。ってことは空か。
鳥かな。鳥じゃないよな。そもそも、鳥はあんな感じでは啼かないからな。
目を皿のようにして、周りを捜す。チート能力のせいか夜にも拘わらず結構よく見える。
なんだか視力も上がってる気がする。計測した訳じゃないので自己感覚での比較なのだが。勇者チート能力に視力向上でもあるのかな。
そんなことを考えながら、2つの月に照らされた夜空を見上げていると……。
いた! 鳥だ。それもめっちゃでかい鳥だ。
少し離れた山の端をひとつの大きな影が悠々と飛翔している。
でかい、でかすぎる。異世界の鳥ってこんなにでかいのか。
イヤ、違うな。いい加減、目の前にある現実を認めよう。あれは鳥じゃない。あんなでかい鳥がいるはずがない。
異世界だからひょっとするといるのかもしれないけど……。
そもそも、形が鳥じゃない。どっちかというとあれは蛇だな。
でも、蛇でもない。
そうだな、あれは龍だ。地球で龍と呼ばれている空想生物、西洋のドラゴンと言うよりも東洋の龍と呼ばれる生き物っぽい。その空想生物そのものが月明かりに照らされた夜空を悠々と舞っていた。
それにしてもでかいな。あのでかい図体でどうやって飛んでるんだろう。
みたところ翼らしき物もないし、なんか物理的な揚力で飛んでいる感じが全くしない。やっぱ、異世界だけに魔力とか通力とかがあるのかね。
う~ん。勇者ってことは、ああいった龍みたいな伝説的な生き物も討伐するのかな。
人ごとのようにそんなことに思考を巡らせていたその時。
カサッ……すぐ脇の茂みが動いた。風か? イヤ、何かいる。
くそっ。こんな近くに来るまで気づかなかったとは。結構周囲には気を配ってたつもりなんだがな。龍に気を取られすぎてたか。
俺は今更とは思いつつも、できる限り気配を消し、茂みを注視する。
どうする? 逃げるか?
逃げても良いけど、ここで逃げてたら先には進めそうにもないな。
こういったことは最初が肝心だからな。逃げ癖が付いた勇者なんて目も当てられない。
しかし、もし魔物だとして勝てるのか? イヤ、そもそも戦えるのか?
俺はしばし思惟する。
これでも合気道の有段者だ。なんとかなるだろ。
意を決した俺は、一歩、また一歩と茂みに近づく。
もう少しで茂みに手が届こうかという所に来たその時、茂みから黒い影が飛び出してきた。その影は右手を大きく振りかぶり、剣のような物で切りつけてくる。
刹那、俺はその振りかぶられた腕を取り、裏返しながら肘関節を取る。そして、そのままうつ伏せにして抑えつける。合気道の基本技『一教』だ。
相手をうつ伏せに抑えつけたまま、よく観察しようと……
「痛い! 離せ! 何する!!」
「ん? なんだ。人じゃないか。」
俺は思わずそうつぶやいた。人形の魔物じゃないかとも思ったのだが、そこにいたのは人間だった。それも少女。
「う~ん。第一村人発見。」
やっぱ人はいるんだな。このまま誰にも会わないで、ずっと時間だけが過ぎたらどうしようかと思ってた所だ。これで俺の詰みも女神の罪もなくなったな。
うん。思いのほか早く第一村人に会えて良かった良かった。
だんだん書く量より、投稿する量の方が多くなってきて苦しんでますが、頑張ります。
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