第67話 街道にて
翌朝、俺たちは、朝食を取るとクルセの街に向かって馬を走らせた。
俺たちは今、街道沿いを走っている。この街道はとてもよく整備されており、道幅も広く快適である。こんなに立派な道を作るのは、さぞかし大変なことだろうと聞いてみると、土魔法を使う技術者たちが整備していると言うことだった。ここでも魔法が活躍するんだね。
しかし、そんな立派な街道も万能ではない。道を作りやすい地形であったり、魔物や動物に遭遇する確率を減らすのに森の中を通らないようにしたりするため、どうしても道が蛇行してしまう。目的地まで一直線とは行かないのだ。なので、その分余計な時間がかかってしまう。
何とかまっすぐ突っ切る方法はないのかな。そう考えていると。
《主様。脇道になりますが、まっすぐ進むこともできますよ。》
ソフィアが念話で話しかけてきた。
どうやら、考える事は皆同じようで、この蛇行した部分をショートカットしたいと言う旅人も多いらしい。そういった旅人たちが通った後は、ちょっとした道になっているのだ。幅の広い獣道といったところだ。
しかし、街道とは違って、盗賊や魔物たちの襲撃があったりするので、安全面では少し疑わしいという。
俺たちには勇者もいる事だし、特に問題はないという判断でこのショートカットを通ることにした。俺も一応勇者だけどな。
《主様。前方に何やら善からぬ気配がします。》
脇道に入ってショートカットし始めてから小一時間程経ったところで、ソフィアが念話で話しかけてきた。
俺は前方をよく見てみる。しかし、これと言って変わったことは感じない。
「条件を満たした為
スキル『視覚強化』が Lv.3になりました。」
「条件を満たした為
スキル『気配察知』が Lv.4になりました。」
なんだか、久しぶりに気配察知がレベルアップしたな。再度よく見てみると、森の中に魔物がいる気がする。
「サラ!」
「あぁ、私も気づいている。」
「どうしたんですか?」
シルビアだけは何が起こっているのか理解していないようだ。
「どうやら前方の森に魔物がいそうだ。シルビアはソフィアに乗ったままでいてくれ。降りるんじゃないぞ。」
「はい! わかりました。」
《ソフィア。シルビアを頼むぞ。》
《畏まりました。主様。》
俺は、ある程度近くまで行くと、ソフィアから飛び降りて気配がする所まで走って近づく。サラは、そのまま馬で突っ込んでいった。
森から飛び出してくる影。ゴブリンだ。サラに向かって7匹のゴブリンが襲いかかる。ゴブリンの手には剣ではなく、棍棒のようなモノが見える。そちらに気を向けていると、俺の目の前にもゴブリンが飛び出してきた。
「サラ! そっちはまかせた。そう言うと俺は青龍の剣を抜き、目の前にいるゴブリン2匹に斬りかかる。剣の性能なのだろうか。今までに無いくらい、いとも簡単にゴブリンが切り裂かれていく。
「経験値を20pt獲得しました。」
振り返るとサラのほうも既に3匹のゴブリンを倒した後だった。
「サラ! 大丈夫か?」
「問題ない。」
そう言いながら、サラはあっという間に残りのゴブリンを倒してしまった。
「7匹ものゴブリンが一瞬だな。流石は王国の勇者様だ。」
「なに、たいしたことは無い。それにしても、街道を外れているとは言え、ゴブリンがこんなにいるとは珍しいな。」
サラの言葉に耳を傾けていると、背後に更に強い魔物の気配を感じた。シルビアはソフィアに乗ったままだ。
「サラ。ちょっと奥が気になるから行ってみる。シルビアを頼む。」
「ちょ、ヒデオ! どこに行く!」
サラが呼び止めていたが俺は気にせず、森の中へと走って行った。
魔物の気配のする方へ暫く走っていくと、奥の方から声が聞こえる。
声がする方へ走っていくと、そこには一体のイノシシに群がる魔物の姿があった。ゴブリンより大きめのその魔物は、今までに見たことがないヤツだ。筋肉が発達した躰、下顎から生えた2本の大きな牙、ブタのような鼻。オークだな。
イノシシを食べようとするオークが3匹。生きたオークとは初対面だが、俺の危険察知は大丈夫だと言っている……気がする。ここで躊躇して時間をかけても状況が良くなるわけではないので、速攻でたたみかけることにする。
俺は、縮地を使ってオークのいるところに飛び出す。
青龍の剣を横薙ぎに払ってオークを両断する。まずは、1匹。
「経験値を50pt獲得しました。」
おぉ、オークは経験値が50ptも入るのか。てことはゴブリンよりは強いって事だな。
残りの2匹が、俺に気づいて武器を構える。剣と槍だ。槍使いは初めてだな。そう考えていると、その槍使いオークが攻撃してきた。俺は後方に跳びそれを躱す。そこをすかさず、もう1匹が斬りかかってくる。
「なかなか、連携のとれた攻撃じゃないか。」
俺は、ゴブリンとはひと味違うその攻撃に警戒しながら剣を構え直す。
「オマエ エモノヨコドリ 殺ス。」
そう言うやいなや、オークが斬りかかってくる。縮地でそのオークの眼前に出るとオークの顎を肘で下から打ち上げる。
「グゥゲッ!」
変な声を出しながらオークが後ろに拭き飛ぶ。振り返りながら後ろにいた槍使いオークを横薙ぎに切る。青龍の剣は碧い光を纏ってオークを両断した。
「経験値を100pt獲得しました。」
「条件を満たした為
スキル『格闘体術』が Lv.8になりました。」
「条件を満たした為
称号『格闘体術の達人』を取得しました。」
取りあえず何とかなったな。それにしても、オークは喋るんだな。足下に転がったオークの亡骸を眺めながらそんなことを考える。
そういえば、串焼きはオーク肉だったよな。あの肉ってこれなのか……。そう思うとちょっと胸焼けがしてきたが、折角の食材なので、『収納倉庫』に入れておいた。
オークを倒して戻ると、シルビアはソフィアから下りてサラと一緒に待っていた。
「あ! ヒデオ様。お帰りなさい。何かあったんですか?」
シルビアが駆け寄りながら言う。
「オークがイノシシを狩ってたみたいだぞ。」
「なに? オークがいたのか?」
「あぁ、3匹いた。」
「で? そのオークはどうしたんだ?」
「倒したが、何か問題でもあるか?」
「いや。倒したのは別に良いのだが、オークか。この辺にオークがいるのは珍しいな。ゴブリンにオーク……。」
「そうなのか? とにかく、ここはまだ危ないかもしれんからさっさと移動しよう。」
サラが何か思案顔をしていたが、ともかくここから離れることを提案する。
「わかった。」
そう言うと、サラは馬に跨がる。俺とシルビアもソフィアに乗り、ひとまず街道まで出ることにした。




