第63話 お披露目
俺とシルビアはソリスの里の集落まで戻ってきた。
結局あれから、なんだかんだで行きと同じくらいの時間をかけて下りてきた。それと言うのも、シルビアが、やれ疲れただのやれお腹が空いたなどと、グダグダ言うもんだからなかなか進むことができなかったのだ。おかげで、途中長めの休憩を取って昼食をとる羽目になってしまった。
「だって、私は森は慣れてますけど、山にはそんなに慣れてないんです!」
俺が苦言を呈すと、シルビアはそう言って拗ねるのであった。それでも、里に戻ったら安心したのか、元気よく家に向かって走って行った。
「お父さんただいま! 聖剣貰ってきたよ!」
いやいや、そんなに簡単に言うなよ、俺、結構苦労したよ?
そう心の中で突っ込みながら、俺は青生生魂の剣を『収納倉庫』から取り出す。
本当の聖剣は『勇者聖剣』なんだよな。これは、『勇者聖剣』を発動しやすくする武器で聖剣そのものではない。しかし、今後、人に『聖剣』だって見せるときには、ただ青生生魂の剣を見せることにしよう。だって、いちいち勇者聖剣の事を説明するのは面倒だし、きちんと顕現させられるとも限らない。実際、青生生魂の剣は聖剣ぽいもんな。
俺が、シルビアの家に入るとマールス、長老、サラが勢揃いして待っていた。
「ヒデオ殿。ご苦労であったな。」
マールスが労ってくれる。
「疲れたじゃろう。まぁ、そこに座ってまずは休むが良い。」
長老も気遣ってくれる。流石に疲れていたからな。気遣いが沁みる。
「ヒデオ! 聖剣はどこだ? 見せてくれ!」
相変わらずだなサラは。マイペースすぎるよ君。って言うか、いつから呼び捨てになったんだ?
「まぁまぁ、勇者殿も疲れておるじゃろうて。少しは休ませてやってはどうじゃ?」
長老がそう言ってくれるが、サラはご褒美を前にした犬のようにハアハア言っている……様な気がする。
「良いですよ。オルトゥスから貰った剣はこれです。」
そう言いながら、俺は青生生魂の剣を差し出す。
すると、サラが飛びつくようにやってきて俺の手からひったくっていった。
もうちょっと落ち着こうね。
「これが召喚勇者の聖剣か!」
目をキラキラさせながら、サラが興奮気味に口にする。本当は違うけどね……。
サラがそれこそ目を皿のようにして、渡した青生生魂の剣をいろんな角度から眺めている。俺はそんなサラを横見に、『収納倉庫』から冷えた果実水を取り出すと、シルビアが持ってきてくれたコップに注いで一口飲む。
「抜いてみても構わんか?」
興奮を抑えきれないサラは、目をキラキラさせながら俺を見て言う。この娘は刀剣フェチなのか?
「あぁ。別に良いぞ。」
俺がそう言い終わるやいなや、サラは青生生魂の剣の鞘を左手に、柄を右手に持つと軽やかに剣を抜く……事ができなかった。
「え? ヒデオ。この剣抜けないぞ!」
サラは、一生懸命左右に引っ張っているが一向に抜ける気配がしない。そのうち、鞘を股に挟んで両手で柄を持ってウンウンうなりながら抜こうとしたが、それでも全く抜ける気配はしなかった。
「え〜? そんなことないだろう。だって、これ貰った時、俺は普通に抜いたぞ? ちょっと貸してみ。」
そう言いながら、俺はサラから青生生魂の剣を受け取って抜いてみる。
キン! と甲高い音と共に青生生魂の剣は鞘から抜け、その姿を現す。相変わらず刀身は、碧いオーラを纏っている。
「あ! 抜けましたね!」
シルビアが大きな声で言う。
「ヒデオ殿しか抜くことができぬと言うことか?」
マールスがそう言うので、俺はもう一度鞘に戻した青生生魂の剣をマールスに渡してみる。
「マールスさん、ちょっと抜いてみてください。」
「よし! じゃあ、やってみようか。」
そう言いながらマールスが抜こうとするが、やはりびくともしない。
その後、シルビアも長老も試してみたがやはり抜くことはできなかった。
「う〜ん。どうやら、ヒデオ殿しか抜くことができないようだな。」
「そうみたいですね。」
俺はそう言いながら青生生魂の剣を『鑑定識眼』で見てみる。
ーーーーーーーーーーーーーー
【青龍生魂剣】
青龍オルトゥスが作製した剣。
青龍の鱗と青生生魂で
作られている。
青龍オルトゥスが認めた者
しか抜くことができない。
ーーーーーーーーーーーーーー
青龍生魂剣って名前があるんだな。それにしても長いな。青生生魂の剣も長いし、呼び名は『青龍の剣』でいっか。それにしても、オルトゥスが認めた者しか抜くことができないって事は、多分俺しか抜けないんだろうな。なかなか、素晴らしいセキュリティーじゃないか。
「どうやら俺しか抜けないみたいですね。」
俺はそう言いながら、青龍の剣を腰に戻しながらふと思った。抜いた状態で他人の手に渡ったときはどうなるんだ?
「サラ、ちょっとこれを持ってみてくれないか。」
そう言いながら、俺は青龍の剣を抜いてサラに渡す。
すると、サラは剣を手に取ると突然剣を打ち下ろす。
ガコッ!
「うわ! サラ何するんだよ! いきなり危ないじゃないか!」
「いや、そう言われてもな。重くて持てん。」
「なに?」
「重すぎて持ち上げられないのだ。」
「え〜? 本当ですか?」
「そう言いながら、シルビアがサラから青龍の剣を受け取る。」
「きゃっ!」
当然と言うべきか、シルビアは持つことさえもできずに青龍の剣を床に落としてしまった。
「なるほど、俺以外の人間が鞘から抜いて持とうとすると重くて持てないって事なのか。」
鞘から抜くことができず、抜いた状態では重くて持てない剣。まさに俺のためだけの剣だな。
「選ばれし者の聖剣か。私のと同じだな。」
ん? 青龍の剣のことを考えてたら、今サラがさらっと何か言ったぞ。いや、別に洒落じゃなくてさ。
「サラ? 今、何て言った?」
気になったので、俺はサラに今、言った言葉を確認する。
「ん? 持ち主しか持てないのは、私の聖剣と同じだなって言ったんだ。」
「私の聖剣?」
「そうだ、私の聖剣だ。」
そう言いながらサラは腰に下げていた例の立派な剣を、手にとって俺に見せる。それは、純白を基調に金の装飾が施された立派な鞘に収められた剣である。そうなんだよな。確かにサラが持っている剣は、立派だよなとは思っていたんだ。
「で、聖剣とはどういうことだ?」
俺がそう言っていると、サラがその剣を抜いて俺に手渡す。
「うわ! なんだこの重さ。」
「流石だな。この剣を持って落とさなかったのはヒデオが初めてだ。」
「なんだ? この剣は。」
「それが私の聖剣だ。」
「なんで、お前が聖剣なんか持っているんだ?」
「どうもこうも、これは私の聖剣だ。」
どうもサラとの会話では埒があかない。俺は何気にマールスを見る。
「ヒデオ殿。サラ・クルースはベルグランデ王国に籍を置く勇者だ。」
マーカスがしれっと、重要事項を口にする。
「え? えーーーっ!? サラが勇者?」
俺の中では残念美少女であったサラが、王国の勇者だとは。
異世界に来て、一番衝撃を受けたかも知れないな。道理で、召喚勇者に逢いに来たり戦いたがったりしたわけだ。それにしてもサラが勇者だとは。人は見かけによらないってよく言ったもんだね。ま、俺も勇者らしいとは思わないけど。
サラは、キョトンとしている。表情がやたら可愛いな。
「私が勇者なのがそんなに変か?」
「変というか。ビックリした。」
「そうか。ヒデオ。そんなことよりも、その剣の名は何というのだ。」
「あぁ、これか、これは『青龍の剣』だ。」
「『青龍の剣』か。良い名だな。」
なぜかサラは頬を赤く染めながら嬉しそうに言う。本当は違うけどな……。
やっぱりこいつ刀剣フェチじゃないのか?




