第62話 勇者の剣 その2
本日2話目です。
「なんだ、やればできるじゃないか。俺。」
今までとは違って、光を纏うというよりも剣そのものが碧く輝いていた。
まるで、ビームサーベルだな。それに、あの衝撃波。自分で振るった剣ながら驚かされるよ。
《ほほう。自力でそれを使えるようになるか》
オルトゥスが感心したように目を細めながら言う。
「それ? ビームサーベルのことか?」
《ビイムサアベル? それは、召喚勇者に与えられし力『勇者聖剣』だ》
「『勇者聖剣』?」
《そうだ。召喚勇者は聖剣を自ら創り出す。自らが持つ剣を、己が通力と霊気で纏い聖剣とすることができるのだ。それが『勇者聖剣』だ。とは言ってもまだ不十分だがな》
「不十分?」
《『勇者聖剣』は、召喚勇者にのみ与えられるユニークスキルだ》
「ユニークスキル? あ! そういやスキル獲得のお知らせがなかった。」
《それなりの力を出せるようにはなっているが、スキルとしては定着していないからだろうな》
「スキルとして定着? じゃあどうすれば良いんだ。」
《慌てるな。今から我が与えてやろう》
そう言うと、オルトゥスは剣を持つ手で俺を指す。
何やら一言叫ぶと俺の足下に半径2m位の大きさの魔法陣らしき物が現れた。そして、それは碧く輝きながらどんどん光が増していく。ひときわ大きく輝いたかと思うと次の瞬間光がすっと消えて無くなった。
「条件を満たした為
ユニークスキル『勇者聖剣』を取得しました。」
「条件を満たした為
「水」属性を取得しました。」
スキル獲得のお知らせが流れる。
「本当だ。ユニークスキルを獲得したよ。なんだか同時に「水」属性を取得したけど?」
《我が「水」の属性を持つからな。ついでだ。》
「っていうか、最初っからこうすれば良かったんじゃないのか?」
《我も召喚勇者の力量を知りたいであろう?》
「実力くらい見たらわかるんじゃないのか?」
《100年ぶりの来客だ。少しは楽しんでもバチは当たらないだろう?》
「なんだそれ。結局お前の我が儘かよ。」
《そう怒るな。それにしても、不十分とはいえ自分で『勇者聖剣』を顕現させたのはお主が初めてだな》
「そうなのか? 今までの召喚勇者、300年前の勇者はどうだったんだ?」
《あやつか。あやつもなかなかの通力の持ち主だったな》
「通力? そういや通力って何なんだ? 教えてくれないか。」
《通力とは神と通じる絆の力のことだ。神通力とも言うな。お前はよほど神との相性が良いのだな。強いつながりを感じる》
「えー!? アストレアとはそんなに相性良いとは思わないけどなぁ。」
脳裏にアストレアの顔を浮かべる。なぜか俺の脳裏に出てきたアストレアはテヘペロしている。
「それで、この聖剣はどういった時に使えるんだ?」
《熟達してくれば自由に使えるようになるが、初めのうちは難しいかも知れないな。しかし、心から使いたいと想えば使えるはずだ。いずれにしても『勇者聖剣』に適した武器もあったほうがいい。》
「『勇者聖剣』に適した武器?」
《『勇者聖剣』を纏うに相応しい剣があった方がよいのだ》
「それじゃあ、今度はその適した武器を捜さないといけないのか?」
《それには及ばん。我からの土産だ》
オルトゥスがそう言うと、俺の目の前に、鞘ごと地面に突き刺さった状態で一振りの剣が現れた。鞘には立派な龍の意匠が施されている。俺は、碧い宝石が設えられた剣の持ち手を取り、抜いてみる。
キン! と甲高い音と共に現れた刀身は、碧いオーラを纏っているかのように見える。
「これは?」
《『勇者聖剣』を発動しやすくする剣だ。我の鱗と青生生魂で作られておる。我が百年の年月をかけて作り上げた業物よ》
「青生生魂?」
《まぁ、珍しい金属と思っておけ。説明はそのうち誰かがしてくれるだろう》
「なんだかいい加減だな。それで? 俺の試練とやらはこれで終了ということで良いのかな。」
《そうだな。『勇者聖剣』が顕現したことで一先ずは良しとすべきだな》
「そうか。始めっから魔法陣でやってくれてたら直ぐだったけどな。」
《まぁ、そう言うな》
「まぁ、わかんなくはないけどな。グヘッ!」
「ヒデオ様! おめでとうございます!」
シルビアが、満面の笑顔でタックルしてきた。シルビアちゃん、マジで痛いんだけど……。
「聖剣を手に入れられたんですね。」
痛いけど、シルビアの満面の笑顔とキラキラした目を見ると、俺もなんだか嬉しくなってくる。
「そうみたいだな。予想したのとは違ったけどな。」
俺は、青生生魂の剣を見ながらそう言う。これは、普段は使わない方が良さそうだな。見立てから立派すぎて悪目立ちしそうだ。そう思いながら俺は、青生生魂の剣を『収納倉庫』に入れる。
「オルトゥス。こっちの剣も貰っておいて良いか?」
俺は、オルトゥスに今日、最初に渡された剣を手に持って言う。
《構わぬが。聖剣を纏うには心許ないぞ?》
「普段使い用さ。」
《よかろう。好きにしろ》
「時々ここに来て修業をつけてはくれないか?」
普段使い様の剣を腰に下げながらオルトゥスに尋ねる。
《我は構わぬが、お主にはお主のすべきことがあるであろう》
「俺がすべきことねぇ。それってなんだ?」
《それは、己で考えることだな。それでは、我は行くぞ。なかなか愉快であった。》
「え? お、おいちょっと待て!」
《いずれまた逢おうぞ》
そう言うと、オルトゥスは龍の姿に戻り天空高く登ったかと思うと、反転してそのまま泉の中へと姿を隠していった。
「おい! どうせなら下まで連れて行けよ!」
オルトゥスに里まで連れて行って貰うか転移して貰おうと思っていた俺は、当てが外れてちょっとがっかりしていた。
「大丈夫ですよヒデオ様。まだ、陽は高いですし。今度は急ぎませんから、ゆっくりと下りましょう。」
シルビアがにこやかな笑顔で言う。
「行きもゆっくりしてた気がするけどな。」
「もう! ヒデオ様の意地悪!」
シルビアは俺の背中をたたくと、そっぽ向いてしまった。
それにしても、勇者聖剣が手に入って……というか身について良かった。色々スキルのレベルも上がったし、魔法も使えることが分かったし、この聖なる山に登ったのも無駄ではなかったな。
俺とシルビアは、それからまもなく下山し始めた。
俺たちが里に着く頃には、高かった陽はもう沈もうとしていた。シルビアちゃん、本当にゆっくりだな。




