第56話 案内人
サラとの仕合が終わった後、シルビアが用意してくれた温かいお茶を飲みながら、俺はアガルテでのことを報告していた。用意してくれたお茶は、ダイ麦という穀物の種子を煎じた物で、麦湯と言うらしい。いわゆる麦茶だな。
「ヒデオ殿。このソリスの里は、代々レア・シルウィアの森の守人としての役割がある。だが、実はもう一つ我々には課せられた使命があるのだ。」
俺が、麦湯を味わいながら飲んでいると、改まった表情をしながらマールスが話し始める。
「それは一体何なんですか?」
「あぁ、約100年に一度現れる召喚勇者の案内人としての役割があるのだ。」
「召喚勇者の案内人?」
「今までベルグランデ王国に召喚された勇者は、ここレア・シルウィアの森に召喚されている。我々の役目とは、その召喚勇者を我らが守護獣オルトゥスの住処へ案内することだ。」
「オルトゥス?」
「ヒデオ様も見たはずですよ。ヒデオ様が森に召喚された夜に飛んでいましたから。」
俺を見ながらシルビアが言う。
「あぁ。あの龍か。」
「リュー?」
「俺たちの世界では、あの生物は龍と呼ばれているんだ。」
「え〜!? ヒデオ様の世界にもオルトゥスと同じような生き物がいるんですか?」
「いや、実際にいるわけではなくてね。空想上の生物と言うことになっている。たぶん、こちらの情報が何らかの形であっちにも伝わったんじゃないかな。」
「そこでじゃ、少しばかり時間がたってしもうたが、勇者殿にはオルトゥス様の元に行ってもらわねばならん。」
長老がゆっくりと口を開いてそう言う。
おー。長老さんいたんだな。
「そこに行くのは良いが、一体何のために行くんだ?」
「我らにも、詳細は知らされておらん。勇者のみに分かることのようだが伝承ならある。」
「長老さん、もったいぶらないで教えてくださいよ。」
「別にもったいぶっておるわけではないのじゃがな。伝承が正しければ、オルトゥス様より勇者の聖剣を賜ることになるであろうぞ。」
「聖剣? マジで? それって必須アイテムじゃない。」
あれ? でもリナは聖剣は異世界の勇者が使う武器だって言ってなかったっけ?
「ヒッスアイテムとはよく分からんが、勇者にはなくてならんものだろうてな。」
そう言いながら、長老はサラを見やる。何でサラなんだろうな。
「そこでだ、案内するのは森の守人一族の中でも長の血を受け継ぐ女子がいくこととなっておる。」
「え? それじゃぁ、長老と一緒に行くのか?」
「馬鹿を言うな。儂はもう歳じゃ。行くのはシルビアじゃよ。」
「ヒデオ様。よろしくお願いします。」
シルビアは満面の笑顔を浮かべて元気な声でそう言った。案内人がシルビアか。シルビアと一緒に行動するのは良いけど、安全面とか大丈夫かな。ちょっと心配になる。
「で、クルース殿はこれからどうなさるつもりだ。」
部屋の隅に座っているサラに向かって、マールスが聞く。そう言えば、サラいたんだな。普段と違って借りてきた猫みたいに静かだから存在忘れそうだよ。こうやって、黙ってたら可憐美少女なんだけどな。
「私か。私はヒデオ殿が戻ってくるのをここで待たせてもらおう。」
「別にそれは良いが、なぜか聞かせてもらっても良いか?」
マールスが不思議そうな面持ちでサラに訪ねる。
いやぁ、マールスはいつも俺が聞きたいことを聞いてくれるな。
「うむ。ヒデオ殿はこの後、王都へ向かうと聞いている。私もそれに同行したいと思ってな。」
「え〜? そんなこと聞いてないよ俺。」
「当たり前だ。今、初めて言ったのだからな。」
「勝手だなぁ。」
「ヒデオ殿。クルース殿の申し出は決して悪くない提案かも知れないぞ。」
俺がふて腐れていると、マーカスがそう言ってきた。
「何でですか?」
「クルース殿がいれば王都で大事が起こることは、まずないだろうからな。ま、道案内ができるかどうかは疑わしいがな。」
「マールス殿。道案内くらいは私にもできるぞ。」
サラがマールスにくってかかるように言うが、マールスは意に介そうとはしない。
「あ、道はひとりでも大丈夫です。」
だって、俺には地図機能があるもんな。あれがあれば、迷うことはない。にしても、サラがいると安全なのか。まぁ、サラはこう見えて王都の聖騎士だし、王国一強いらしいし。色々と顔が広いのかも知れないな。マールスにしても、サラのことを知っていたわけだしな。
「戻ってから考えます。取りあえず、今はオルトゥスのことを先に済ませたいので。で、いつ行くんですか?」
「勇者殿も長旅で疲れておるじゃろうて、今日はゆっくりと静養なされい。聖なる山に入るのは明日の朝で良いじゃろう。」
長老はそう言うと、杖をついて席を立つ。
「それじゃぁ儂はこれで帰るとするかの。そうじゃ、そちらのお嬢さんは儂の家に来ると良いじゃろう。」
そう言い残すと長老はマールスの家から出て行った。
その日は、俺がマールスの家に、サラが長老の家にお世話になることになった。
☆
翌朝、シルビアに起こされて目が覚めた。
「ヒデオ様、朝ですよ。起きてください。」
シルビアに揺すられているのは分かっているのだが、長旅とサラとの仕合で思いの外疲れているのか、なかなか目が開けられない。
「う〜ん。もうちょっと……。」
俺が半分寝ぼけながらムニャムニャといっていると、我慢の限界が来たのかシルビアが俺の掛け布団を引っぺがす。
「もう! ヒデオ様、いい加減に起きて……。きゃ〜!! ヒデオ様何で裸なんですか! もう! 最低!」
そう言うと、シルビアはバタバタと下に降りて行ってしまった。
あ〜。昨日寝間着に着替えようと思って服脱いだまま、疲れて寝ちゃったんだな。てか、デジャビュか? 前にもあったぞこれ。
1階に降りると、シルビアが先に朝食をとっていた。俺もテーブルについて、出されている料理に目をやる。今日の朝ご飯は何かな? おー、ライ麦パンに干し肉をあぶったのに、肉のスープか。朝からボリューミーだな。
「朝から、ボリュームがあるんだな。」
俺は、シルビアに話しかけたのだか返事がない。ん? シルビアの方を見てみたが、プンスカしていている。どうやらまださっきのことを怒っているみたいだな。
「シルビアさん? さっきはごめんね。誤るからゆるしてくれないかな?」
「……」
「あの〜、今日は一緒に聖なる山に登らないと行けないんだけど……。」
「はー。もう、しょうがないですね。次は気をつけてくださいよ。」
「わかったよ。でさ、シルビアちゃん、この肉は何の肉?」
「これですか? イノシシですよ。この森でお父さんが狩ったヤツです。美味しいですよ。」
「へぇ。そうなんだ。朝からボリュームがあるね。」
「今日は聖なる山に行きますからね。しっかり食べておかないと。」
「そうだな。しっかり食べて聖剣もらってこような。で? どこに行って、どんなことをするんだ?」
「え? 知らないですよ。」
「は? 知らないって、だってシルビアは案内人なんだろ?」
「はい。頂上まで案内はできますが、オルトゥスがどこにいるかは私は知らないです。っていうか、きっと誰も知らないと思いますよ。」
「え〜! マジかよ。」
どこにいるのかも分からないオルトゥスを捜しながら山を登るのか。何かこのミッション、前途多難な気がしてきたぞ。
朝食を取り終えた俺は、山で必要になりそうな物を準備してもらって片っ端から『収納倉庫』に入れていった。もちろん朝食の時に作ってあったスープも温かいうちに入れてある。
これで準備は万端だな。俺はオルトゥスが住まうという山を見る。期待と不安では期待の方が大きい。
「久しぶりにワクワクすることが出来そうだな。」
聖なる山を見つめながらそう呟いた。




