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第54話 申し出

 いろいろ考えたがストレートが一番だな。ということで、

「わかった。じゃぁ頑張ってくれ。」

 今度こそ俺はソフィアに跨がる。


「あ〜! おい! こら! まて! 非道いぞ! ちゃんと理由を話しただろう! しかも、機密事項なんだぞ!」


 あ〜もう、めんどくさいなぁ。このまま放置してさっさと行きたいんだが……。

 イヤ、ちょっと待てよ。もうちょっと冷静になって考えてみよう。

 俺が今ここで放置して先に行っても、いずれコイツはソリスの里にくるよな。そうすると、俺が召喚勇者だって事がバレるのも時間の問題だな。

 それならいっそ近くに置いておいた方が対処しやすいかもしれない。それに、恩を売っておいた方が何かと都合が良いかもしれないしな。


「しょうが無いな。乗れよ。」


「そうやって、また私を放置して……ん? 乗れ?」


「どうするの? 乗るの? 乗らないの? もう行っちゃうよ?」


「いや! 乗ります! 乗らせてください。よろしくお願いします!」


 こうして俺は残念可憐美少女(サラ)と共にソリスの里に向かうことになってしまった。



 俺とサラはソフィアに乗り、『駿馬疾風』で駆けている。


「ヒデオ殿。この馬はすごいな。とてつもなく早いぞ。」


「あぁ。()()()は特別なんだよ。」


「素晴らしい馬だ、ガッ! グエッ」


「喋ってると舌噛むぞ。少しは黙っていろ。」


 それにしても、サラは本当に良く喋る。喋っては舌を噛みそうになってるし。

 ほんと、黙ってれば可憐美少女なのになぁ、つくづく残念だ。しかし、それにしても何のために()に逢いに行くんだろ。悪い奴ではなさそうなんだけどな。単純だし。

 まぁ、ソリスの里にはシルビアもマーカスもいることだし、おいそれとは変な事はできないだろうけど。

 とにかく到着するまでは、俺が召喚勇者だってことはバレないようにしよう。そのためにも出来るだけ会話しないことだな。


 しかし、この後もサラは独りで何か喚いていた。俺は、完全にスルーしてたけどね。


 ☆


 俺たちがソリスの里に着いたのは、陽が西に傾こうとする頃だった。

 あれ? 随分早くない? 『駿馬疾風』のお陰なのかソフィアのお陰なのかは分からないけど、ジェームスと走ったときよりは確実に早いな。ま、良いことだけどな。


 俺たちは馬を下りてソリスの里に入る。門番をしている青年は俺のことを覚えてくれていて、シルビアとマーカスを呼びに行ってくれたようだ。


 しばらく、待っていると向こうから駆けてくる少女が見えた。


「ヒデオ様〜!」

 走ってきたシルビアを受け止める。


「ヒデオ様! お久しぶりです。」


「久しぶりシルビア。元気にしてたかい?」


「はい。ヒデオ様がいなくなって少し寂しかったですが、元気に過ごしてましたよ。」


「そうか。それはよかった。」


「ヒデオ様もお元気そうで何よりです。さぁ、こちらへどうぞ。父様も長老様も待っていますよ。」

 そういいながら、シルビアは俺の手を引き家へと向かおうとする。俺は戻ってきた門番にソフィアの世話を頼んで家へと向かった。シルビアも相変わらずかわいくて良かったよ。


「お父様。ヒデオ様がいらっしゃいましたよ。」

 家の中に入ると、そこにはマーカスと長老がテーブルについて待っていた。


「おぉ。ヒデオ殿、元気そうで一安心だ。で、どうだった? アガルテは。」

 席を立ち、こちらに近づきながらマーカスが笑顔で言う。


「いやぁ。色々ありましたよ。詳しい話しはまた落ち着いたらします。」


「そうだな。長旅で疲れていることだろう。で? そちらの方は?」


「あ、そうそう。こちらは…」


「む。サラ・クルース。もしや其方はサラ・クルースではないのか?」

 俺が紹介しようとした途中で、マーカスが険しい顔をしながら口を挟む。


「おや。貴殿は私のことを知っているのか。なら話が早い。早速……」


「なぜ。貴殿がここにいる。貴殿は今、王都アクワにいるはずではないのかな。」

 サラがしゃべっていても構わずマーカスが続ける。


「あぅ……。」

 サラはマーカスの勢いに押されて、ちょっとオロオロしている。やっぱり残念さんだ。


「私は、召喚された勇者殿に逢いに来たのだ。して、私のことを知っている其方は何者なんだ?」


「失礼。私はマーカス、マーカス・ソリス。ここソリスの里長だ。そして、付け加えて言うならば、元アルファー騎士団団長だ。」


 へ? マーカスって元団長だったの? てことはジェームズの前の団長ってことか。いや~知らなかったよ。もう、教えといてよぉ。水くさいなぁ。それにしてもサラって有名人なのかな。王都の聖騎士だからかな。


「そうであったか。それは、無礼な物言いをした、平に容赦を。さて、で、召喚勇者殿は今どちらに居られるのだ?」

 サラがそう言いながら、部屋の中をキョロキョロと見渡す。

 あ、やばいな、どうやってごまかそうかな。関わりなくないな。そう思いながら俺がオロオロしていると。


 あれ? マーカスと目が合う。あ、シルビアとも目が合った。う~ん。みんな俺を見てるな。それを見てサラが俺の方を振り向く。


「ん? ヒデオ殿がどうかしたか?」

 何のことか分からず、サラが小首をかしげる。俺はマーカスに目で訴えながら首を横に振る。


「え〜? 知らずに一緒にいたんですか? ヒデオ様が召喚勇者ですよ。」


 あちゃ〜。そんな気がしてたけど、シルビアがさらっとバラしてしまった。


「な! まさか! こやつが召喚勇者だというのか?」

 サラが驚いて、思わず大きな声を出しながら俺を凝視する。


「そんな……、そんなこと、一言も言わなかったではないか!」


「聞かれなかったからな。」

 素っ気なく答える俺。


「ぬぅ。図ったな!」


「図るも何も、他意は無いよ。真意を測りかねていただけだ。」


「クルース殿は、なぜヒデオ殿、召喚勇者に会いたかったのだ?」

 俺が聞きたいことをマールスが聞いてくれる。


 サラは改めて俺の正面に対峙する。

「ヒデオ殿。いや、召喚勇者殿。是非、私と手合わせ願いたい。」


「て、手合わせ?」

 あっけにとられて声がうわずってしまった。


「私は召喚勇者殿との仕合を所望する。」

 改めてサラがそう言った。その表情からは残念少女の面影は感じられなかった。

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