第53話 旅の途上にて
俺は街道に出ると、ソフィアにまたがりソリスの里に向かって走る。
もちろんスキル『駿馬疾風』を使う。昨日アクティベートされた地図機能のおかげで、目の前には地図が表示されている。地図には現在地と目的地、そして、そこに行くまでの道順が表示されている。いやほんこれ便利。それにしても、あんまり道が良くないな。そういえばジェームズに乗せてきてもらった時もそうだったな。
「条件を満たした為
スキル『乗馬上進』が Lv.3になりました。」
「条件を満たした為
スキル『悪路走破』が Lv.2になりました。」
「条件を満たした為
スキル『駿馬疾風』が Lv.2になりました。」
うん。行きと同じだな。ただ、今回は自分で乗ってるけどな。
なかなか順調な旅だ。既にだいたい半分くらいは来た。出発して2時間くらいかな。いくら『駿馬疾風』で強化しているとは言え、さすがにソフィアも疲れているだろう。俺は休める場所がないか捜しながら辺りを見る。少し先に大きな樹が見える。よし、あそこで少し休憩しよう。
俺は、大きな樹の下にソフィアを止めて降りる。『収納倉庫』から桶と水、干し草を出してソフィアに差し出す。ソフィアは嬉しそうにそれを食す。とっても喜んでいるのがなぜだか分かる。
俺も、先日リナと買い物をしたときに買った、保存食と水を取り出す。この保存食はクルミやナッツのような木の実を、薄く溶いたショー麦という地球で言うところの小麦で固めた物だ。腹持ちが良く栄養価も高いので保存食に最適なのだ。
でも、よく考えたら『収納倉庫』があるから保存食でなくても良かったんだよな。
色々試してみた結果、どうやらこの『収納倉庫』は入れると対象物の時間も止まるようだ。なので、温かい物は温かいまま、生の物も腐らないみたい。ちなみに御多分に漏れず生きた生物は入れられなかった。
食事をした後、俺は樹の下に寝っ転がり目をつぶる。戦めく風に、木々が揺れる音が聞こえる。風が俺の顔をなでていく。ちょっと肌寒いが、逆にそれが心地よい。
なんだか、のんびりしてるな。こういった時間も大切だよなぁ……。
☆
「GOBUuuuuuuu!!!」
いかん。どうやら寝てしまっていたようだ。それにしても、何か聞こえたな。
「きさま! かかってこい!」
「Gobuea!」
あれ? この鳴き声は……。起き上がって声がする方を見る。
そこには2匹のゴブリンと、それに対峙する1人の女性がいた。あ、これヤバいヤツじゃん。流石に助けないとな。
そう思い起き上がると、俺は樹に立てかけていた剣を手に取る。そして、ゴブリンたちがいる方へ向かおうと走りかけたその時、
「ハッ!!!」
女性が掛け声と共に剣を一閃する。と、瞬きする間もなくゴブリンは両断され弾け飛んだ。それは疾風の如く、目にも止まらぬ早業であった。
「へ? なにそれ。」
こんな剣筋は見たことがない。なんだこれ? 人間業じゃないぞ。一体何者だ?
先程の剣撃で巻き起こった土煙が収まるのを待つ。俺は目を凝らしてそこにいる人物を見た。
「はい?」
そこには、あまり逢いたくなかった人物の姿があった。見つかってはいけない気がしたので、早々に立ち去ろうとしたら、
「あ! おまえは!」
彼女が俺に気づいて声を上げる。
城壁正門広場でソリス行きのキャラバン隊を捜していた残念可憐美少女その人であった。
「おまえはあのとき正門にいた者だな。なんだ。おまえも1人でこっちに来てたのか。」
残念可憐少女が俺を指しながら言う。
「も?」
「あぁ、あれからソリス行きの馬車はひとつも見つからなくてな。結局、走って行くことにしたんだ。」
「走って? 走ってここまで来たのか?」
いやいやいや。どんだけ早いんだよ。俺より少し前に出てたとしても、俺は『駿馬疾風』で馬に乗ってきたんだぞ? それに俺抜いたっけ? いくら俺が少し休憩したからって、追いつけるもんじゃないだろう。マジで何者なんだこいつは?
「それにしても、おぬしもここまで走ってきたのか……あ〜! そこにいるのは馬ではないか! きさまやはり伝があったのだな。そんな予感がしてたのだ。だから、あの時呼び止めたのに、無視して行きおって!」
それにしても、この娘はどうしてこんなに賑やかしいんだろう。黙ってたら可憐な美少女なのに。喋ると残念すぎるよ。ほんと。やっぱり関わらない方が良さそうだな。
「だから、あの時ちゃんと話しを……あ〜!! おい。ちょっと待て! どこに行く! まだ話をしているだろう。おい! まさか私をここに置いていくつもりではないだろうな!」
ソフィアに乗る準備をし始めた俺を見て、残念可憐美少女が喚き出す。あ〜もう! 本当うるさいぞ。
「ここまで独りで走ってきたんだろ? この先も走れば良いじゃないか。」
「何を言う。か弱い乙女をこんな所に独りで放置するなんて尋常じゃないぞ!」
「誰がか弱いだって? 尋常じゃないのはおまえだろ? ゴブリンを目にも止まらない剣撃で一刀両断したくせに。」
「む。見てたのか。あれは、たまたまだ。」
「んなわけあるかよ!」
「そんな些細なことに気をとらわれてはいかん。目の前のか弱き乙女が困っているその姿のみに目をやれば良いのだ。」
なに言ってんだ? この娘は……。
「そもそも、どこの誰とも分からない者と共に行動することなど出来るわけがないだろう?」
「そうか。それはすまなかった。確かにそうだな。それでは自己紹介を。」
残念可憐美少女は、居ずまいを正して改めて俺を見る。
「私の名はサラ・クルース。ベルグランデ王国は王都アクワの聖騎士団に籍を置く者だ。以後お見知り置きを。」
そう言うと丁寧に礼をした。
そうやって、ちゃんとしてるとかっこいいのになぁ。相手が自己紹介しちゃったら仕方がないじゃないか。それにしても王都の聖騎士様か。聖騎士はみんなあんなに強いのかな。ちょっと興味があるな。
「俺は、但野 英雄 武道家だ。よろしく。」
「ただのヒデオ? あぁ。つまりはヒデオか。うむ。ヒデオ殿よろしく頼む。」
「よろしく。じゃ、俺はこれで。」
「なぜだ! 自己紹介をしたではないか!」
「だって、なんかよく分からないからな。」
「私は決して怪しい者ではない!」
「いえ。十分怪しいんですけど。そもそもなんでソリスの里に行きたいんだ?」
「それはちょっと……おいそれと人に言うわけにはいかん。」
俺はソフィアに跨がろうとする。
「おい! ちょっと待て! わかった。わかったから。ちょっと待ってくれ! そうか、そうだな……仕方がないな。これは他言無用だぞ。」
「いや。別に無理に聞きたいわけじゃないから、言いたくなければ言わなくて良いけど。」
「すまん。すみません。話させてください。」
サラだっけ? サラは焦りながら跪いてお願いする。
変なヤツだけど、なんだかからかってると面白くなってきた。
「いいよ。話してみ。」
「実は、私は召喚勇者を捜しているのだ。アガルテの要塞城にいると聞いて行ってみたのだがな、召喚勇者は既に城を出た後だったのだ。どうやらソリスの里に向かったらしいとの情報を得たのでな。それで、ソリスを目指しているんだ。」
げ、マジか。それって俺のことじゃんか。っていうか、どんな情報網なんだよ。超正確、超早業じゃねえか。しかし、今のところ俺が召喚勇者だってのはバレてないみたいだな。それにしても何で俺に会いたいんだ?
「君子危うきに近寄らず」「触らぬ神に祟りなし」って言うもんね。ここは関わらない方向で行こう!
俺は、どうやってこの場を逃れようかとただそれだけを考えていた。
明日、日曜日は9時にアップ予定です。




